サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)

「財前さん、……何者ですか?」

いきなり助手席に座った彼女から質問された。

「ASJ 戦略企画部の本部長だけど」
「そんなわけないですっ!」
「……何故、そう思う?」

やはり、この女はただ者じゃない。
最大手の航空会社の本部長だとしても、地上にいる職員が管制塔のやり取りを理解出来るのは、……まぁ無いよな。

「英語でのやり取りだから何となく分かりますけど、あの業界用語みたい単語で全てが理解出来るのは凄いです」
「……なるほど」

グランドスタッフとして働いているだけなら、分からないかもしれないな。
ただ、……俺は、その前にあの空を飛んでいたから。

「何か食べて帰るか?」
「え?」
「いや、要らないならいいんだが」
「………奢りですか?」
「フッ、勿論」
「じゃあ、頂きます」

車を発進させ、話題を変えようと。
首都高速に入り、新宿へと向かう。

「好き嫌いはないので、財前さんのお好きなもので大丈夫です」
「……ん」

適当に空いてそうな店に入ればいいか。
普段は彼女が運転して、俺が後部座席に座って点滴を受けるルーティンだから、こうして隣り合わせに座るのが何だか不思議な感覚に陥る。
走行中のエンジン音と風を切る音だけでは耐えきれず、音楽でも掛けようとした、その時。

「本当に、何者ですか?仕事柄、無線マニアとか?」
「はぁ?」

何故、そっちの方向に思考が傾くんだ?
管制室と機長のやり取りなんだから、普通なら操縦士だと思うもんだろ……。

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