サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)

「三年前に本部長に就任するまでは、副操縦士をしてたから」
「……え?…………あ」

カーナビの液晶ライトに照らされた彼女は、驚いた様子で運転する俺を見た。
そして、思い出したかのように声音が沈んだのが分かる。

「眼の病気が原因で操縦士を続けられなくなって、今に至るから」
「………そうだったんですね」
「ん」

同情はされたくない。
病気を知られただけでも耐えがたいのに、同情までされたら……。

「手術は出来ないんですか?腫瘍さえ取り除いたら、あとは少しリハビリしたらまた操縦士に戻れるんじゃ?」
「………無理らしい。正確には無理ではないが、場所が悪いのもあって、失明のリスクが高いし、成功率もかなり低い」
「そんな……」
「まぁ、悩んだところで完治するわけでもないし、経過観察しながら付き合って行くしかないらしい」

彼女も医者だ。
全ての病が治せないことくらい理解出来るだろう。

「もう、………諦めたんですか?」
「………ん」

彼女の言葉が胸に突き刺さる。
諦めたくて諦めたんじゃない。
諦めざるを得なくて、仕方なく考えることから逃げたんだ。

いずれは会社を継がなければならないから、それが早まっただけ。
思っていたよりもかなり早くになっただけ、それだけだ。

「私、本当は胸部外科の教授を目指してたんです。毎日のように手術と論文に明け暮れて。その線上に恋人との結婚を考えた時期もあったんですけどね」
「………ん」
「その彼、留学から帰国して来た理事の娘に気に入られて。将来のポストを約束されたんでしょうね。私はそのポストの座に負けました」

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