サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)
薄暗い車内で、初めて彼女の過去を見た気がした。
以前、展望デッキで話した時とは質が違う。
窓の外の流れる景色を眺めながら、時折苦笑いのような感じに鼻を鳴らす。
「十時間以上の手術を毎日のようにこなして、緊急の手術も頻繁にあって。そんなクタクタな毎日で話し合うことも面倒に思えて、……逃げたんです。現実から」
「………なるほど」
「別れてからのこの二か月、空港病院の仕事をしながら手術から解放されて、正直気持ち的にはだいぶ楽なんですけどね。でも、『現実から逃げてる』という足枷のような、前に進めない感じになってて。だけど、財前さんと話すようになって、少しずつですけど、新しい自分の目標が出来た気がします」
俺が現実を受け止めきれずに逃げたように、彼女も過去から逃げて今に至る……らしい。
けれど、彼女はその一歩先に行こうとしている。
それも、たった二か月という短期間で。
俺はすでに三年、正確には四年が経過しているというのに。
「毎日、航空機を見てて辛くなりませんか?」
「………辛くないと言ったら噓になるな」
「ですよね」
「まぁ、いずれは地上に降りて会社を継ぐ予定だったから、それが少し早まっただけ」
「それでも、やり遂げて降りるのと、意思とは関係なく降ろされるのとでは違うじゃないですか」
「……そうだな」
「私がもし、医師免許を取り上げられたらって考えたんです」
「ん」
「とてもじゃないけど、財前さんみたいに同じフィールドで働けません。医師を辞めて医療事務をするようなものじゃないですか」
「………」
「私なら、絶対無理だから。だから、同じ戦場に立ち続けられる財前さん、尊敬します」