サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)

「そもそも、俺の下の名前知ってるか?」
「え?………いいえ」
「やっぱり」

そう言われてみればそうだ。
名札には『ASJ 戦略企画部 本部長 財前』としか書かれていない。
名刺を貰ったことも無いし、本部長室の入口には『戦略企画部 本部長室』としか書かれていない。

診察及び診療に関する記録や処方は完全に自由診療扱いになっている。
外部に漏れないようにするためらしくて、酒井さんが内密に処理してくれているらしい。
だから、今さらだけど、苗字しか知らないとか、……あり得ないよね。

「今さらですけど、何て仰るんですか?」
「さぁ、……何だろうね?」

意地悪だ。
完全に遊ばれている。
まぁ、明日にでも酒井さんに聞くからいいんだけどね!

「そういう財前さんは、私の下の名前、知ってるんですか?」
「ん」
「え?」
「彩葉」
「っ……」

肘掛けに頬杖をついて妖美な視線を向けられた。
しかも、少し低めで色気のある声で。
思わず、ドキッと胸が高鳴ってしまったじゃない。

「その無駄に漏れ出してるフェロモンを何とかして下さい」
「は?………フフフッ、フェロモンって……」
「だって、自覚症状あります?」
「………」
「深夜にネクタイ緩めて、Yシャツのボタン外して、気怠そうにソファーに腰下ろして。血管浮き立たせた骨ばった手でYシャツの袖捲ったり……。今もそうして口元覆うみたいな仕草、女性のハートを鷲掴みにしてるって気付いてます?」

これだからイケメン相手にするのは疲れるんだよね。
無自覚でドキドキさせるんだから。

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