サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)
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「郁っ、環医師と婚約したってホントなのっ?!」
「あ、いや、……それは」
彼女が口説かれている現場をやり過ごす為に『フィアンセ』にでっち上げられた翌日。
早朝から物凄いハイテンションの母親が電話を掛けて来た。
『ふり』『嘘』『庇うための口実』、そんな言葉を並べたところで、俺の母親には通用しない。
嘘が嫌いで、他人に合わせるような性格じゃない俺を熟知してるからこそ、言い訳が通用しないことくらい分かっている。
口を開けば開くほどボロが出そうで。
適当に聞き流してやり過ごそうとした、その時。
「早急に式場手配しておくわね~」
「は?」
「逃げられないように、しっかり捕まえておくのよ?!いいわね?」
俺の眼病を知っているというだけで、両親にとって彼女は特別。
更には、サポートとも言える『診察及び治療』の日々を送っていること自体が、既に両親の中で『嫁』としての合格ラインに達しているらしい。
何度も『どんな子なの?』『可愛い子なの?』と、しつこく聞いてくる。
それに……。
彼女と親しくなればなるほど、自分の心にも変化があるのは確かで。
前は彼女の首に掛けられている聴診器の左右の長さが同じでないと苛々して堪らなかったのに、最近はそれほど気にならなくなったし。
彼女が寒がりだからなのか、自宅の設定温度も彼女のために変えたりする自分がいる。
操縦士を辞めて以来発症した強迫性障害も、彼女と過ごすうちに徐々に緩和されつつある。
彼女に弱みを握られ、突き放すか、はたまた俺も弱みを握ろうとあれこれ画策してみたが、時間が経てば経つほど癒されている俺がいる。