サイコな本部長の偏愛事情(加筆修正中)
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「本部長、おはようございます」
「……おはよう」
長い廊下をカツカツとかかとを鳴らして出勤すると、ブリーフィングデスクから出て来たCAとすれ違う。
すると、そのCAの後ろから駆け寄る人物が一人。
「郁っ」
この会社で俺のことを『郁』と呼ぶ唯一の人物だ。
「何か、用か?」
「婚約したってホント?」
「……プライベートなことは話したくない」
「本当なのね。……おめでとう」
嘘が嫌いだということを知ってる彼女は、俺が否定しないことを肯定したと捉えたらしい。
「これからは苗字で呼んでくれ」
「………分かったわ」
「結婚、……おめでとう。式には行けたら行くから」
「うん」
俺らの会話に興味津々のスタッフが聞く耳立てているのが分かる。
がやがやと騒がしかった室内が、一瞬で静まり返っている。
後ろを歩く酒井にアイコンタクトし、俺らは自室へと向かった。
***
コンコンコンッ。
「はい」
十六時十分。
早番勤務の環医師が、仕事を終えて本部長室に現れた。
「今日の調子はどうですか?」
「ん、……特に異常は無いかな」
決裁書類をデスクに置き、ソファーに移動しようと腰を上げた、その時。
いつもの雰囲気と少し違う彼女がソファーに腰を下ろした。
「何だか、いつもと雰囲気が違うな」
「あ、分かりますか?」
「………ん」
何が違うんだろう?と、間違い探しのように頭のてっぺんから足の先までじっくりと観察する。
「髪型と……メイクか?目元の雰囲気がいつもと違う感じがする」
「正解っ!さすがですっ」
彼女は嬉しそうに拍手した。