隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 そもそもアルベティーナに王太子妃というものが務まるとも思っていなかった。辺境の領地で生まれ育ったため、窮屈な生活は苦手である。だから身体を絞めつけるコルセットが嫌いなのだ。
「わかりました。三日後、仕事が終わり次第、こちらへ参ります」
 そう答えるアルベティーナの唇は少しだけ震えていた。それを彼に気付かれないようにと顔を引き締める。
「お前が怖気づかないことだけを祈ってるよ。何よりも、金を払わなくても極上の女を抱けるんだからな」
 ルドルフの左手が、さわっとアルベティーナの胸元を撫で上げた。
(えっ……)
 突然の出来事に、アルベティーナも目を白黒させる。
(団長ってこういう人だったの?)
「怖気づいたか? 断るなら今のうちだぞ?」
 アルベティーナは力強く首を左右に振る。
「私……、団長が好きなので」
 そこで激しく音を立てて、アルベティーナは立ち上がった。飲み残しの紅茶があることも気にせずに。
「逃げません。団長こそ、怖気づいて逃げないでくださいね」
 どすどすと絨毯を力強く踏みしめるように歩くと、バタンと乱暴に扉を閉めてアルベティーナはルドルフの執務室を後にした。騎士の間へと向かう。
 カツンカツンと足音を鳴らしながら、白い廊下を一人で歩く。執務室前の廊下は、天井がアーチ型になっており、一定間隔で並んでいる大きな窓が外から光を取り込んでくれる。これから警備隊の朝議を迎えるこの時間、廊下の隅々にまで太陽の光が入り込んでいた。
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