隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 アルベティーナの頭の中には考えが複雑に絡みついていて、シーグルードの言葉が通り抜けていく。その様子の彼女を見たシーグルードは、ふっと鼻で笑ってから、彼自らお茶の準備をする。
 結局、アルベティーナは寝台の上から動けずにいた。
 シーグルードが差し出してくれたカップを手にする。燻した香のする紅茶だ。これはルドルフが好んでよく飲んでいた。毎朝、彼の仕事を手伝う時に、アルベティーナが淹れていたお茶だ。
 シーグルードもカップを手にすると、アルベティーナの寝台に腰をおろす。
「けして、君を騙しているつもりはなかった。任務のため、仕方なかったんだ」
 シーグルードがぽつぽつと言葉を紡ぎ出す。
 シーグルードはときどきルドルフと入れ替わり、騎士として任務をこなすことがあったようだ。最近では、アルベティーナも潜入した裏社交界における関係者の一斉検挙。あのとき、彼女がルドルフだと思っていた人物はシーグルードだった。
「てことは、私は団長とお会いしたことがないのですか?」
 カップから伝わる温もりを感じながら、アルベティーナはシーグルードの顔を見つめた。
「ああ、ティナ。やっと私の顔を見てくれたね」
 笑みを零すシーグルードであるが、それがどことなく悲しい感じもする。
「ティナがルドルフと会ったのは二回あるよ。君が騎士団に入団した初日と、それから君が報告書を手渡したとき。あの日だけは本物のルドルフだ。あのとき、君がルドルフの仕事を手伝いたいと口走ったみたいだね。それでルドルフは慌てて私のところに飛んできた」
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