隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「行儀が悪いですよ、アルベティーナ様」
 イリダルが口の端をあげて、笑った。行儀が悪いと口にされてしまえば、アルベティーナも行動を慎む。浮きかけていた腰を、深く椅子に戻した。
 まるで目の前のイリダルはアンヌッカのようだ。
 それでもまだ王城につかないのはおかしいと思った。いつもの倍近く時間がかかっている。
「やっぱり、外を見せてください」
 イリダルやクレアが何か言うより先に、アルベティーナは窓に引かれているカーテンを開けた。
「え……?」
 窓の向こうに広がる世界に、アルベティーナは呆然とした。見慣れた王都の街並みではない。開けた道が広がっている。この景色は、ヘドマン伯から王都へ来たときの馬車の中から見た風景に似ている。
「どこ?」
 素早くイリダルが動き、クレアを捕らえた。
「アルベティーナ様。彼女の命が惜しければ、黙って私に従ってください。こうやって人質を取らなければ、あなたにはやられてしまいそうなのでね」
 クレアの喉元には短剣が突き付けられていた。
「……っ」
 アルベティーナは悔しさで唇を噛む。一体、何が起こったのか。何がどうなったのか。
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