隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「イリダルさん。この馬車は一体どこに向かっているの?」
「どこ? あなたの結婚相手の元へと向かっているのです」
「シーグルード殿下……。の元ではなさそうね」
「ええ、違います。あなたには、もっと相応しい相手がいるのですよ。アルベティーナ・ルヴィ・マルグレット様」
 聞き慣れない名前に、アルベティーナはじっとイリダルを見つめた。彼の腕はクレアを捕らえていて、手の先には短剣が握られている。クレアは怯えたような表情をしながらも、気持ちはまだしっかりとしているようだった。
「どういうこと?」
「やはり……。アルベティーナ様はご存知なかったのですね」
 くくく、とイリダルは笑い出す。
「もうしばらく目的の場所までは時間がかかりますから、アルベティーナ様の知りたいことを教えてさしあげますよ」
 目の前の男は本当にイリダルなのかと、アルベティーナは疑いたくなった。
「それにしても、アルベティーナ様の御髪は、本当に見事な銀白色ですね。マルグレットの前王を思い出させるような、見事な色ですよ」
 イリダルの言葉を聞いたアルベティーナは、あのときの潜入調査のことを思い出していた。ルドルフに扮したシーグルードが口にしていたことを。
 銀白色の髪は、マルグレットの前王と同じ。クリスティンをマルグレット前王の隠し子と思わせることが作戦である、と。
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