隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 口を堅く結んだアルベティーナは、仕方なく彼の隣に座った。目の前には彼の母親と思われる女性。
「ああ。自己紹介がまだだったね。僕は、マティアス・ダイアン・マルグレット。君とは腹違いの兄というやつか。で、前にいるのが僕の母親ね」
「エステリよ」
 それが名前なのだろう。
 先ほどから侍女がやってきて、カチャカチャとお茶を淹れていた。アルベティーナの前にも湯気を立てたカップが置かれる。
「どうぞ。お菓子もあるから。ここは静かで本当にいいところだ。身を隠すにはもってこいの場所なんだ」
 アルベティーナはシーグルードの言葉を思い出していた。マルグレットでは王の座を狙って少し血生臭い争いが起こったこと。前王の弟の王弟派と前王の息子である王子派に分かれ、負けた王子派の人間は処刑されたこと。そして肝心の王子と前王妃は亡命したと。亡命先は前王妃の故郷であるライネン国ではないかと噂されていたが、まさかグルブランソンにいるとは思ってもいなかった。
「灯台下暮らしとは、こういうことを言うのだろうね。彼らは、母の故郷であるライネン国を探っているからね」
 カチャリと音を立て、マティアスはカップに口をつける。
「君も飲んだら? 喉が渇いたでしょう?」
 この状況で出された物に簡単に手をつけるようなアルベティーナでもない。
「警戒してるのか。ま、それでもいいや」
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