隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「この髪の色を見てみろ。珍しいだろう? この()()の髪が」
 ルドルフは皮肉めいた口調でリトルトン男爵を煽っていた。
「だが、残念ながら貴殿とのおしゃべりはここまでだ。私はクリスティンをウォルシュ侯爵に紹介せねばならないからな」
 ウォルシュ侯爵。その名もアルベティーナには記憶があった。確か、彼の息子は外交大臣を務めているはず。
(あ、そういうことか……)
 アルベティーナは瞬間的に考えた。外交大臣とはその名の通り他国との政策立案を補佐する役職だ。つまり、他国とのやり取りが多い地位。息子がそこにいるとなれば、他国の情報が入りやすい。本来であれば機密情報とのことで外部に漏らしてはならないのだが、このような場に出入りしているというのであれば、そのような約束も守られていないのだろう。
 ルドルフと組んでいる腕に、つい力を入れてしまう。彼はそれに気付いたのか、アルベティーナを見下ろしてきたが、すぐに前を見て獲物を見据える。
「ウォルシュ殿、ご無沙汰している」
 ルドルフがウォルシュ侯爵と思われる男に近づくと、そっと耳元で囁いた。それに驚き振り返った男。灰色にうっすらと白いものが混ざっている髪を後方に流して、襟足の部分は何かの尻尾のように結ばれている。
「ゲイソン会長、か?」
 恐らくウォルシュ侯爵は、その仮面の下で目元を緩めているのだろう。そしてすぐさまアルベティーナを舐め回すかのように、じっとりと執拗に見つめてくる。
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