隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 大広間から出ると両脇を支えられながらゆっくりと階段を上がっていく。二階の廊下に並んでいる扉。それのうちの一つを開けると、アルベティーナはそこに入れられた。ウォルシュ侯爵はもう一人の男に「後は頼むぞ」とだけ伝えると、自分は部屋から出ていった。
 残されたのはアルベティーナと見知らぬ男。ぐらりと彼女の身体は傾き、男の方へと倒れていく。男は軽々と彼女を抱き上げ、寝台の方へと連れていかれた。
 身体は動かなくても思考は動いている。つまり、ここはそういう場所なのだ。
 寝台に仰向けにおろされたアルベティーナの銀色の髪は、無造作に広がった。男もギシリと寝台を軋ませながら四つん這いになり、アルベティーナの両手をシーツの上に縫い留めながら、見下ろしてきた。男が身体をずらして手を伸ばし、彼女の顔の仮面に触れる。
(顔を、見られてしまう――)
 髪の色は誤魔化せても、顔の造りは誤魔化せない。
 アルベティーナは、ぎゅっと目を瞑った。
 ゴスッ、という物音が聞こえ、男の身体が倒れてきたのがわかった。だが、それはアルベティーナの上ではなく、辛うじて隣に倒れていた。
「おい、無事か?」
 仮面がずれて視界を塞いでいるため、声の主の顔を確認することができない。それでも、誰が来てくれたかすぐにわかった。
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