隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 ヘドマン領からこの王都へ来るときも、もちろん馬車に乗ってやってきた。アルベティーナにとって、馬車での長旅というのも初めてのことで、王城に行くことも初めてのこと。そのための社交界デビューの場でもあるのだが、初めて尽くしが続く彼女としては、やはり緊張してしまう。
 コンラードは社交界シーズンであってもあの辺境の地から離れるようなことは無かった。離れても、ほんの数日程度。というのも、あそこは国境を守る要。主が長期間そこを不在にすることにためらいがあったようだ。また、二人の息子が王都にいることから、代理のきくものについては息子たちに頼んでいた。つまりコンラード本人も、王城を訪れるのは久しぶりのことであった。
「ティーナをエスコートできる日がくるとは、感無量……」
 本来であれば、エスコート役は見栄えが良くて若い二人の兄のどちらかに頼む方がいいのだろう。だが、王国騎士団に所属している兄たちは、自由になる時間がなかなかとることができない。まして妹の社交界デビューのエスコートでとなれば、二人の兄たちが喧嘩するのが目に見えていた。だから『公平な』という理由でエスコート役は父親であるコンラードになったのである。
 コンラードはそろそろ年は五十に届くのに、背は高く、がっしりとした鍛えられた体格と整った顔立ち。日に焼けた肌にダークブラウンのくせのある髪。そして、鋭い眼光。髪にちらほらと白いものが混ざりつつあるが、それでもその辺の二十代、三十代の男性に引けを取らないような見栄えである。
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