隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
「おい、水をもらってきたぞ」
 アルベティーナの視界は、じんわりと涙で濁っていた。だから、ルドルフが戻って来たことにも気付かなかった。唇を冷たい何かが濡らしていくのに、それが喉の奥にまで入っていく気配はない。
「あっ……、んぅ……」
 アルベティーナは思わずはしたない声を漏らしてしまった。
 ちっ、とルドルフが舌打ちをしたことに気付いた。恐らく彼の目には、アルベティーナの姿が情けなく映っているに違いない。
 次に唇に触れたのは、温かくて柔らかくて、だけど少しだけしっとりとしている何かだった。それがアルベティーナの唇を割って、口腔内に入り込み、少しの液体を押し込まれた。
「けほっ」
 彼女は突然のことに咽てしまう。
「まだ、足りないな」
 ルドルフがそう言ったことだけはしっかりと耳に届いていたが、何が足りないのか、アルベティーナにはよくわからない。だが、すぐにまた何かが唇に触れ、何かが喉元を通り過ぎていく。
 気付いたときには、アルベティーナは自らルドルフの頬を両手で包んでいた。動かすことができないと思っていた四肢が、いつの間にか動くようになっていたようだ。だが、それでも身体の熱は冷めない。
「はぁっ……、だ、団長……、たすけ、て……」
「ちっ」
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