隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 だからだろう。デビューを控えているアルベティーナよりも彼の方が目立っているのは。先ほどから、デビュタントたちが緊張した面持ちでこの控室にいるのだが、それでもちらちらと視線が飛んでくる。その視線の先にいるのは、もちろんコンラード。視線を向ける者はデビュタントたちだけではない。そのエスコートとして付き添っている男性たちからも。
(お父さまって、女性からだけでなく、男性からも人気があるのね)
 アルベティーナは視線を集めているコンラードを見上げたが、彼はその視線にも動じず、ただ娘を慈しむかのように見つめていた。
(でも、ちょっと暑苦しいわ……。ずっと私を見ているし。はっ、もしかして、監視……)
 されるようなことに数多くの心当たりがあるアルベティーナは、ただ単に娘を愛でている父親の眼差しさえ、不穏に感じてしまうようだ。そんな娘の心には気付かないコンラードは、始終ニコニコとした笑みを浮かべながら娘を愛でていた。
 娘と父親の思いがすれ違うまま、とうとう入城する時間となった。家名を読み上げられたデビュタントたちは、緊張した面持ちで控室を出ていく。アルベティーナの家名が読み上げられれば、彼女もまた父親に手を預けて控室を後にした。
 控室から大広間までは廊下で繋がっていて、その大広間の前でデビュタントたちが集まっていた。この扉の向こうには、国内の名だたる貴族の他、近隣諸国からの招待客もいることだろう。アルベティーナにとっても身の引き締まるような思いだ。
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