隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~
 扉の隣で控えていた侍従が声をあげ、アルベティーナの名を告げた。お淑やかさからかけ離れているアルベティーナではあるが、さすがの彼女もこの場では緊張しているのだろう。コンラードに預けている手にも、知らぬうちに力が入っていたらしい。
「大丈夫だ。堂々としていればいい」
 耳元で低い声で囁かれ、誰にも気付かれぬようにアルベティーナは小さく頷いた。
 扉をくぐればそこは大広間。高い天井には幾何学的な模様が描かれていて、豪勢なシャンデリアがいくつも吊り下げられていた。
 ヘドマン辺境伯の本邸にだって、パーティを開くような広間はある。だが、これほど天井は高くないし、これほどきらびやかでもない。
 さらに扉から玉座までには赤い絨毯が敷かれていて、その両脇には大勢の招待客が並んでいた。アルベティーナはまるで価値を見定められているかのような、ねっとりとした視線を感じていた。コンラードと共に玉座の前にまで進み出る。
 緊張して足がすくんでしまいそうだった。そのとき、コンラードがそっとアルベティーナの名を呼ぶ。
「ティーナ……」
 それは彼女を促すかのような、優しい声色だった。父の声を耳にしたアルベティーナは、玉座に座っているグルブランソン国王と王妃に向かって、何度もアンヌッカと練習をした挨拶をした。
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