十二歳の恋人
お母さんから電話が掛かってきた。
今夜は、帰って来れないって。
一体何を考えているのか。小学生の娘を一人にして、外泊なんて!


実は、慧琉の家庭は、母子家庭なんだ。
慧琉が、5歳の時に、お父さんが死んじゃった。
交通事故だった。

慧琉は、少しだけ理解できた。
もう、会えないって事。
お葬式の時、お母さんは立てないくらい泣いていた。
慧琉は、お母さんの手をずっと離さなかった。

何だかわからないけど、離しちゃいけないと思った。




「お母さん、今日帰って来れないって。最低な母親だよね……。」

膨れ面で言った。
先生も慧琉の家庭が、母子家庭だって知っている。
「オィ!」
慧琉のほっぺを軽くつねった。

「痛い!」

少し怒った顔だった。
初めて見る顔。
「そんな言い方よくないぞ!二度とするなよ‥‥。」

「分かったから、離して」
「よ〜し」

つぎは笑ってみせた。
先生の表情はコロコロ変わる。

「ご飯なんか作れないよ〜。先生作ってよ!」

「俺がか!?」

暫く考えて、
「わかった。じゃ買い物しないとな。」

「ハンバーグがいい!」



ワクワクして、一人はしゃいでしまった。
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