十二歳の恋人
あの夜の事は、お母さんには、言ってない。
話したら、きっと怒るよね。
だから、言わない。


お父さんには、バレちゃってるけど…内緒だよ。

「今日は、先生これないって電話があったわよ」
「えー!?何で?どーして?」

「なんでも、お友達が亡くなったらしくて、お通夜に行くから休ませて下さいって。」

友達…
男の人かな‥‥
もしかして、女の人?

泣いてるんだろうな。
悲しくて、寂しくて

お父さんが亡くなった時、泣きじゃくってたお母さんみたいに。



お母さんには、言わなかったけど…
あの日、慧琉も一人で泣いてたんだよ。
お母さんの前では、泣くのを我慢して、
だって、お母さんが、あんまりにも泣くから、
立てないくらいに泣くから…
慧琉は、泣けなかった。
慧琉が、守ってあげないとってね。
小さいながらに…
心に誓った。



半年程で、お母さんは泣かなくなった。
その代わり強くたくましくなって…


もう、 7年たったんだよ。

隠れて、お父さんお父さんって泣いてた時から。


「お母さん、」

「ん?」

キッチンで、お米を洗いながら、こっちを向いた。

「7年たったんだね。まだ、泣いたりする事ある?」

お母さんは、また向こうを向いた。

「泣いたりしてないよ。」
「そっか……。」

お母さんが、手を拭き慧琉の隣に座った。

そして、優しく肩を寄せた。

「お母さんね……。ある夜、見てしまったの」

慧琉がお母さんの顔を見上げた。

「慧琉が、泣いてたのを

お母さんの前では泣かないでいたから、まだ理解できてないんだって、思ってた。」

「バレてたの?」

「ん。でもね…半年もしてからだったけど。
お母さん何一人で泣いてるんだろう。辛い悲しいのは、慧琉も一緒なのに……。その日から決めたのよ‥‥お母さんは、
もぅ…泣くのは止めようって。」


肩をポンポンと小さく叩いた。

「そーなんだ。」

初めて、知ってなんだか、嬉しいような悲しいような、複雑な気分だった。
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