セカンドバージン争奪戦~当事者は私ですけど?


ヨウには何となく、江藤さんと最寄り駅が同じだとは言わずに引っ越しを報告して、言った方が良かったのだろうか…言ったところで…と午後は数回考えた。だけど、自分がズルいことをしていると結論付けるのが嫌で‘最寄り駅が同じ人なんてたくさんいるはず。わざわざ江藤さんの名前だけ出して報告の必要はないよね。近所ではないし’と考えることにした。

その日の帰り、私が1階まで降りたところで、話をしながらこちらへ向かって歩いてくる大人の集団があった。正しくは集団ではなく、江藤さんと女性ふたりの3人だけなのだが美男美女の圧倒的なボリューム感が半端ない。美しい女性たちは店舗スタッフさんだろうか?それともこのビルで働く他社の方だろうか?

ゆっくり歩きながら少し挨拶に迷いつつ

「失礼します」

3人に聞こえるように言ってすれ違うと、3人は揃って短く‘お疲れ様’と言ったので同じ会社の人かと思う。私はすぐに再開された彼女達の話し声を後頭部で聞きながら、目の合わなかった江藤さんに不自然さを感じたあと、何だか寂しく感じた。え?寂しくはないでしょ?

あれだけのアプローチがあって、囲い込みかとまで話をしたあとに全く会わなかったから感情の誤作動が起こったようだ。びっくりした…
< 52 / 68 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop