俺様男子はお気に入りを離さない
「ここ、上らない?」

神社の前で私は本殿の方を指差す。
ここの神社は本殿に向かって階段が続いていて、上まで上がると少し開けていて花火がよく見えるちょっとした穴場になっている。

「いいけど、大丈夫か?」

「何が?」

「下駄で階段はのぼりにくいだろう?」

「これくらい平気だよ」

ふふっと笑って見せたけれど、御堂くんの細やかな優しさに胸がきゅんきゅんと音を立てた。

カランカランと石段を上がるたびに下駄が軽やかな音を立てる。花火大会と神社というシチュエーションが相まって幻想的な気分にさせた。

ふいに鼻緒がぐっと指の間に食い込んで思わず前のめりになった。「わわっ」と漏れた声とひときわ大きなカランという下駄の音に御堂くんがこちらを向く。

「まったく芋子は世話が焼ける」

えっ、と思った瞬間感じる右手のぬくもり。

ドックンと大きく心臓が鳴ったのと、花火が打ち上がったのは同時だった。

「お、花火始まったみたいだな。急ごうぜ」

御堂くんは私の右手をしっかりと握る。

……握る?
えっ、ちょっ、待って。
これって、これって、手を繋いでるよね?

ようやく思考が追いついた瞬間、カアアッと熱くなる頬に激しく脈打つ心臓。

だってこんなのまるで恋人みたい――。
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