俺様男子はお気に入りを離さない

「てかお前、名前で呼べって言っただろ?」

「学校じゃ恥ずかしいよ」

なんてのは言い訳で。
学校でうっかり『薫くん』なんて口走ってしまったらどこかに引きずり込まれて淘汰されるんじゃなかろうか。

そんなことを想像してぶるりと身震いする。

うん、やっぱり薫くんなんて呼べない。
学校では御堂くんって呼ぼう。

ぐるぐると考えていると――。

「次の生徒会役員に立候補しようと思ってる」

「えっ?」

突然の話題に意識が現実に引き戻された。

「生徒会?」

「ああ、生徒会。陸上部はやめる。っていってもずっと行ってないけどな」

「そうなんだ、じゃあ忙しくなるね」

「当選したらな」

「御堂くんなら当選するよ。だって人望が厚いもの。でも陸上部はいいの? あんなに頑張ってたのに」

「……」

急に御堂くんが口をつぐむので、もしかしたら聞いちゃマズかったのかもしれない。
慌てて取り繕おうとしたけれど、その前にまたガバリと引き寄せられて御堂くんの胸にダイブした。

「俺が特定の部活にいると迷惑がかかるからな」

「迷惑……?」

「女子たちが煩いんだ。真面目にやってるメンバーのストレスになるだろ」

「なんか、わかる気がするけど……」

でも私も御堂くんが走る姿を見ていた一人としてちょっと心苦しいような……だけど御堂くんの言い分もわかるから、なんだか胸がぎゅっとなった。

真面目に部活に取り組んでいる人にとって、行きすぎた応援や歓声、さらには隠し撮りなんかはいい気分ではない。それが原因で調子が出なかったりまわりに迷惑をかけているのなら尚更のこと。

それを御堂くんはわかっていたから、自ら身を引くんだ。
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