俺様男子はお気に入りを離さない
ドキンドキンと心臓が痛い。
もしかして、と過った瞬間、紡がれる言葉。
「俺のせいで千花子が嫌な思いしてるんだろ?」
強かった口調が急に柔らかくなる。
それはとても私を心配しているような、そんな気遣うような優しい言葉。
御堂くん絡みで私が受けた嫌な思いといえば、あれしかない。
上級生から呼び出された、あの日のこと。
あれから私は目を付けられてしまって、御堂くんファンからはあまり良い目で見られていない。
だけどそれは私というよりも御堂くんの方こそ大変になってしまった出来事なのに。
「御堂くんのせいじゃないよ。私がちゃんとできないから。御堂くんは人気者だもの。私が独り占めしちゃダメなのよ」
そう、独り占めしちゃダメなの。
御堂くんはみんなの御堂くんだから。
御堂くんのことを大好きな人がたくさんいて、御堂くんに期待している人もたくさんいて、それなのに私だけが美術室で御堂くんを独り占めなんておこがましいの。
私が御堂くんを好きだって気持ちは封印しないといけないの。
胸が張り裂けそう。
痛くて痛くて。
だけど、しょうがないよね。
私と御堂くんとじゃ、釣り合わないんだから。
目頭が熱くなって、悟られないように俯いた。
鼻の奥がツンとする。
はやく、はやく手を離してほしい。
そう思ってるのに――。