俺様男子はお気に入りを離さない
決意新たにうんうんと頷くと、ビシっとデコピンされて「あいたっ」と思わず声が出た。
ヒリヒリするおでこを手で押さえて薫くんを見れば、とんでもなく不満顔。
「千花子、お前とんでもなくバカだ」
大きなため息とともに睨まれる。
「俺はそのままのお前がいいんだよ。無駄な努力して変な女になるんじゃねーよ」
「そのまま……?」
「千花子は自分の魅力に何も気づいてないんだな。お前は今のままでじゅうぶんいい女だよ。可愛くてたまんねぇ。ずっと俺の隣でヘラヘラ笑ってればいい」
「ヘラヘラ?」
「言葉のあやだ。バカ」
薫くんはふんと鼻で笑うと、そのまま私の頭を引き寄せる。
「わわっ」と前のめりになりそのままポスンと薫くんの胸の中におさまった。
ドクンドクンと心臓の音が聞こえる。
大きくてあったかい薫くんの胸の中はとてもとても安心する。
このまま時が止まればいいのにって思う。
「薫くん、あのね……」
「うん?」
「私も薫くんのことが好き」
心からそう思った。
ポロリと出た言葉はとても重くて、尊い。
ぎゅっと抱きしめる腕に力がこもる。
薫くんのさらさらの髪が私の耳をかすめ、小さなささやきが聞こえた。
「やっと千花子から好きって言ってもらえた」
「……そうだっけ?」
「そうだ」
私も薫くんの背に手を回す。
お互いの気持ちが溶けて混ざり合って新たな色を作り出すかのように新鮮な気持ちになる。
「薫くん、好き――」
二度目の「好き」はすぐに優しいキスでふさがれた。
今までで一番優しくて蕩けるような口づけ。
キャンバスに描いた濃淡の激しい夜空が、そんなときもあったよねっていつか笑えるように。
これからも薫くんの横で笑っていたいと思った。
【END】