死にたがりやな君は、わたしのヒーローでした。
「おーい?爽玖くーん?」
彼女は、俺の眼の前で手を振って、我に返らせてきた。
「え?あ、はい」
俺は返事をする。
ここは、チェーン店のカフェ店。甘いコーヒーの匂いが鼻をくすぐる。
コーヒーは飲めないけれど。
「何考えてたの?」
昔から変わらない、ふふっとした笑い方。
「自分のヒーロー論について」
俺は正直に答えると、なぜか彼女に吹き出して笑われてしまった。
「そうなんだ。たまに私も考える」
本当は思っていなさそうなのに、同情してくれる彼女に、俺すらも笑ってしまう。
「そういえばさ」
彼女は、カフェで頼んだ温かいココアを飲まない。どうしてこんな真夏に温かいココアを?と、疑問に思うところもあるが、それも笑い話としてしまっておこう。
俺は静かに続きを待つ。
「この夏で2年たつね。出会って」
「あーそうなんですね」
俺は向かいに彼女がいることと、今俺がここにいて話せていることに安堵する。
「ん。ってか飲まないの?ココア」
俺が思っていた疑問をそのまま俺に返してくる。
「いやそっちこそ飲まないから。俺も飲まないんで」
「なんでよ」
そう言って、彼女はくすくす笑う。
「だって、真夏なのにこんなあっついココア飲むとか頭おかしくなりますよ」
「爽玖くんもじゃん!あったかいやつ」
「いえ。俺は冷たいココアですから」
「…それはもうココアじゃないね」
勝手に彼女はうなずいて自分だけ納得している。
「アイスココアってやつ」
俺はメニュー表をしっかり見せて、彼女を納得させようとするが、無駄だと後悔しようとする。
「へぇ…」
以外にすっぽり理解してくれたので、後悔は取り消しとなった。
「え、えっとさ、私達って、付き合ってる訳じゃ…ないんだよね?」
確かに、今現在女子大学生の彼女と、1年下の高校生な俺が忙しい中会っているということは、ただの友達だったらこの世界からすれば異常かもしれない。
少しあつい。夏だからだろうか。
「…いや」
俺は何も答えることができず、ただ2文字を口にした。
俺は何を言えばいいのかよくわからない。
俺は視線を彼女の目から斜め下へずらす。
「あ、またずれた」
ずれたというのは、俺の視線のことだろう。最近それをよく指してくる。
「言わないでください」
「ふふ」
いたずらっぽく彼女は笑う。