期末テストで一番になれなかったら死ぬ
 面と向かって訊くこともできず固まっていると、不意に教室のドアが開かれた。

「おつかれー」

 入ってきたのは安曇だった。

 安曇の姿を見た瞬間、自分が鹿島くんのすぐ近くにいることを意識した私は、咄嗟に、しかし慌てて見えないように距離をとった。

「ちょうどよかった」

 と、鹿島くんが安曇を手招きする。

「ひまり、僕の代わりに鶴崎さんと連絡とってくれないか?」

 安曇は「ん?」と小さく首を傾げた後、私の顔を見て薄く笑みを浮かべた。

「はい? え?」

 慌てる私の隣で、鹿島くんは冷静に「いや、違う」と首を振った。

「お盆には学校が閉まるだろう。その間に分からないことが出てきたり、勉強方法の相談がしたくなったりしたときのためだ」

「はい? え?」

 戸惑う私を見て、安曇は「あはは!」と口を開けて笑い、それからスマホを取り出した。

「そんな心配するくらいならさ、一緒に勉強すればいいんだよ! 別に学校開いてなくてもよくない? 外ですれば。お盆って来週? 鶴ちゃんどーせ暇でしょ? 後で時間送るね」

「それがいいな。よし、頼んだそ、ひまり」

 鹿島くんと安曇は、そうして私を置き去りにして一気に話を進めてしまった。

 窓の外、セミの声がやけに大きく聞こえる。

 ずっと空き教室で過ごしていたから忘れかけていた。

 夏は、騒がしい季節だということを。



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