期末テストで一番になれなかったら死ぬ
 気がつけば二人とも、すっかり身体は冷えていた。

 一緒にお風呂に入るのは初めてだった。

 色々な話をした。これまでしなかった話もした。希帆さんの仕事の話。大学生だった頃の話。受験勉強についての話。私が小学生だった頃の話。昔読んだマンガの話。希帆さんの両親や田舎の話。

 昔はゲームやアニメが好きだったけど、就職してからはご無沙汰になっているという話。『アイスト』の話。今度、一緒に遊べる据え置きのゲーム機を買おうかという話。

 友だちについての話もした。

「夏にお墓参り行ったとき、話してくれたよね。別のグループだったお友だちの話」

「あー。したね」

「どんなきっかけで仲良くなったの?」

「え、うーん。……仲、よくはないと思うよ?」

「高校の時からずっと付き合いあるのに?」

「うん。そいつとはね、仲がいいんじゃないと思う」

「悪いの?」

「いいとか悪いとかじゃなくて、深い、かな?」

 希帆さんはそう言ってはにかんだ。

 深い。

 その言葉を聞いたとき、真っ先に思い出したのがあの子だった。

 一緒に放課後遊んだりしているだけのあの頃だったら、こうして思い浮かぶことはなかっただろう。

 本気でぶつかりあった今だからこそ、私はあの子との仲を『深い』と思えている。そんな気がした。

 そして友だちの話が出たら、次にする話は決まっていた。

「舞夕ちゃん、好きな子はいないの?」

「いるよ」

「やっぱり? そうだと思ったよー」

「そうじゃなきゃ夏休みに毎日学校行ったりしないよね」

「急に素直になりすぎて怖い!」

「酷い! 正直ないい子になろうとしてるのに!」

「ひょっとして最近勉強頑張ってるのも?」

「うん。負けたくなくて」

「いいなー、青春!」

「そんないいものでもないよ」

「そうなの?」

「そうなの」

「相談乗る?」

「そのうち」

「いつでもいいよー」

「ありがとう」

 そんなことを話していたら、のぼせてしまい、出るときにはふらふらだった。次からは水飲みながらにしようねと笑いあった。

 夕方、スーパーにお買い物に出かけた。もう雨は上がっていた。十一月ともなると日が暮れるのが早い。雲の晴れ間からは未だ紅味の残る残照が覗いていた。

「これから一緒に色々お出かけしようね」

 と、並んで歩く希帆さんが私に笑いかけた。

「舞夕ちゃんが家出したとき、どこに行きそうか知っておかないと」

「そんなに家出しないよ! というかさっきのも家出じゃないもん」

 スーパーでは鶏肉と鱈とネギとうどんとお鍋の素を買った。

 ついでにクッキーやフィナンシェなんかの焼き菓子も買ったし、希帆さんの好きな紅茶の茶葉も買った。

「後でお茶会しようね」

「夜にこの糖質の量はヤバいね」

「遠回りして帰ろうか?」

「そのくらいで帳尻合うかな?」

「じゃあ走って帰る?」

「袋が破けるので駄目です」

 結局、少し遠回りして井の頭公園を散歩してから帰ったので、二人ともまた身体が冷えて、こたつに手足を突っ込んでたら一時間くらい出られなくて、夜も遅くなってからお鍋を始めて、締めのうどんまで食べたらお腹はパンパンで、紅茶は淹れてもお菓子までは無理無理と言っていたのに結局食べちゃって、もう一度お風呂に入るときにはちゃんとペットボトルの水を持ち込んで、上がったらもう日付が変わっていた。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 そして私たちはそれぞれの部屋に引き上げた。

 少しだけ復習をしておこうとベッドでノートを見ていたら、いつの間にか寝落ちしていて、翌朝には少し風邪をひいていた。

 日曜だから学校は休まずに済んだけれど、希帆さんには「体調管理、大事!」と叱られた。




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