期末テストで一番になれなかったら死ぬ
 校門を駆け抜け、住宅街の路地を駆ける。

 すぐに息が切れる。運動不足の身体を恨む。

 太い通りに出たところで、タクシーに撥ねられかける。

 窓を開けた運転手さんに「危ねえぞ!」と怒鳴られる。

 頭を軽く下げ、再び走り出す。

 後ろで車の走り出す音が聞こえたとき、ようやく気づいた。

 今のタクシーに乗せてもらえばよかった。

 でももう遅い。

 近ごろ続く冬晴れは相変わらずで、コートを着てくるのは忘れてしまっていたけれど、走っていると寧ろ暑いくらいでちょうどよかった。

 二車線の道路を渡り、くじら山病院にたどり着く。

 入り口の自動ドア、開きかけの隙間から中に入ると、受付のお姉さんが立ち上がり、「手術室!」と叫んだ。

 頷いて返す。

 その場所は、もちろん知っている。

 早足で歩く。

 廊下の突き当りに、赤いランプ。

 手前のソファに、見知らぬ中年の男女が二組と、安曇。

 私の足音に気づき、五人が顔を上げる。

 安曇の手には、白い封筒が握られている。

 目は赤く、頬はぐしゃぐしゃに濡れている。

 にも関わらず、安曇の顔には何らの表情も浮かんでいなかった。

「……鶴ちゃん」

 安曇はそう言って、私の胸に飛び込んできた。

 胸元に、暖かく濡れた感触。

 安曇の頭頂部の向こう、観音開きのドアの上では、赤いランプが灯っていた。

「怜央、さっき、もう……」

 しゃくりあげながら切れ切れに捻り出された安曇の言葉。

 その向こうで。

 赤いランプの、灯が消えた。




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