期末テストで一番になれなかったら死ぬ
第八章 私はずっと幸せだから
「国公立大学の医学部は確かに難関だがな、可能性はあるぞ」
「行けますかね?」
「この調子で伸びてけばな」
青木先生はそう言って満足気に頷いた。
年の瀬も押し迫った土曜日の午後。
今日は、三者面談が行われている。
「一学期までボロボロだったのに、よく持ち直したもんだ」
「自分でもびっくりですよ」
二学期の期末テストから一週間程が経ち、昨日ついに結果が発表された。
私は二位で、一位は鹿島くんだった。
私は確かに前に進んだ。でも結局追いつけなかった。鹿島くんも前に進んでいたからだ。
結局私は一番になれなかった。
でも私は生きている。
だって、『一番になれなかったら死ぬ』というのは、覚悟を示す言葉であって、現実の生き死にとは関係ない。
「なあ、鶴崎」と、青木先生は私を見て言った。
「俺たち教師にとって一番嬉しいことって、何だか分かるか?」
「給料日ですか?」
「違う!」
「ああ、色々引かれますもんね。税金とか、年金とか、養育費とか」
「最後のはねえよ! 真面目な話だ、真面目な話」
「えっと、じゃあ、生徒の成長とか?」
「それもあるがな、ちょっと違う。教師にとって一番嬉しいのはな、お前たち生徒に使われることだよ」
「使われる?」
パシリとかですか、という冗談を慌てて飲み込む。今は真面目な話なのだから。
「俺たちはいつも生徒にああしろ、こうしろって言ってるがな、本当はそんなことしたくねえんだ。勉強しろってのも言いたくねえ。何が大事で何をすべきか、結局のところ、決めるのはお前ら自身だ」
「……努力する意味は、自分で見い出せってことですね」
「分かってんじゃねえか」と、青木先生はふっと小さく笑った。
「人からの受け売りです」
私は肩を竦めて見せた。
「でだ。何が大事か決めたらな、そのために何をするか考えろ。手段は無数にある。学校も教師も手段の一つだ。使えると思ったらな、遠慮なく使え。俺たち教師はな、待ってるんだ。お前らに振り回されるのをな」
「ウニヴェルシタス、ですもんね」
大学は、学生ギルドから始まった。学生たちは組合を作り、教員を雇って教育サービスを享受した。
今、学費を払っているのは私の方だ。お父さんが残したお金で、希帆さんが稼いだお金で、私は学校に通っている。
確かに、ぶん回さないともったいない。
「俺たち教師も人間だ。学校から出れば自分の暮らしがある。でもな、俺たちは無断で授業を休んだり、学校から居なくなったりしねえからな。使える間は存分に使っとけ」
そう言って先生は椅子から立ち上がった。
「全力で振り回します」
私も立ち上がり、両手で素振りをして見せた。
「おう、やってみろ!」
青木先生は、顔いっぱいの笑顔でそう応えてくれた。
「行けますかね?」
「この調子で伸びてけばな」
青木先生はそう言って満足気に頷いた。
年の瀬も押し迫った土曜日の午後。
今日は、三者面談が行われている。
「一学期までボロボロだったのに、よく持ち直したもんだ」
「自分でもびっくりですよ」
二学期の期末テストから一週間程が経ち、昨日ついに結果が発表された。
私は二位で、一位は鹿島くんだった。
私は確かに前に進んだ。でも結局追いつけなかった。鹿島くんも前に進んでいたからだ。
結局私は一番になれなかった。
でも私は生きている。
だって、『一番になれなかったら死ぬ』というのは、覚悟を示す言葉であって、現実の生き死にとは関係ない。
「なあ、鶴崎」と、青木先生は私を見て言った。
「俺たち教師にとって一番嬉しいことって、何だか分かるか?」
「給料日ですか?」
「違う!」
「ああ、色々引かれますもんね。税金とか、年金とか、養育費とか」
「最後のはねえよ! 真面目な話だ、真面目な話」
「えっと、じゃあ、生徒の成長とか?」
「それもあるがな、ちょっと違う。教師にとって一番嬉しいのはな、お前たち生徒に使われることだよ」
「使われる?」
パシリとかですか、という冗談を慌てて飲み込む。今は真面目な話なのだから。
「俺たちはいつも生徒にああしろ、こうしろって言ってるがな、本当はそんなことしたくねえんだ。勉強しろってのも言いたくねえ。何が大事で何をすべきか、結局のところ、決めるのはお前ら自身だ」
「……努力する意味は、自分で見い出せってことですね」
「分かってんじゃねえか」と、青木先生はふっと小さく笑った。
「人からの受け売りです」
私は肩を竦めて見せた。
「でだ。何が大事か決めたらな、そのために何をするか考えろ。手段は無数にある。学校も教師も手段の一つだ。使えると思ったらな、遠慮なく使え。俺たち教師はな、待ってるんだ。お前らに振り回されるのをな」
「ウニヴェルシタス、ですもんね」
大学は、学生ギルドから始まった。学生たちは組合を作り、教員を雇って教育サービスを享受した。
今、学費を払っているのは私の方だ。お父さんが残したお金で、希帆さんが稼いだお金で、私は学校に通っている。
確かに、ぶん回さないともったいない。
「俺たち教師も人間だ。学校から出れば自分の暮らしがある。でもな、俺たちは無断で授業を休んだり、学校から居なくなったりしねえからな。使える間は存分に使っとけ」
そう言って先生は椅子から立ち上がった。
「全力で振り回します」
私も立ち上がり、両手で素振りをして見せた。
「おう、やってみろ!」
青木先生は、顔いっぱいの笑顔でそう応えてくれた。