【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2

社食で女子トーク

 香澄はカルボナーラと小サラダにし、会計を終えて松井がスペースを取ってくれているテーブルまで行く。

 佑は松井の隣に座り、香澄は何となく佑の向かいに座った。
 女性たちはそれぞれ、香澄の両隣と佑の隣に座る。
 松井は自分の食事を取りに行った。

「じゃあ、いただきまーす! そしてかんぱーい!」

 成瀬という女性が言い、水の入ったグラスを持って乾杯を求めてくる。

「か、乾杯!」

 慌ててグラスを持って他の三人のそれに合わせると、成瀬から自己紹介が始まった。

「私から自己紹介するね。私はChief Every Sportsのデザイナーの一人の、成瀬いずみ。二十七歳だよ」

 青髪ショートヘアの成瀬はニカッと笑う。
 スポーツ部門のデザインを担当しているだけあって、服装はカジュアルで本人も元気一杯な感じだ。

「私は水木芽衣(みずきめい)。Businessのデザイナーの一人で、二十八歳」

 黒髪ロングの水木は、モノトーンのモダンな服装で、大人っぽい。
 一見大人しそうな印象もあるが、眉毛上で切られた前髪などから見て、本人のこだわりが強そうな雰囲気がある。

「私は荒野利穂(あらやりほ)。いずみと同い年で同期。担当はFeminine」

 赤髪ミディアムヘアの彼女は、緩いパーマを掛けていて、優しい色合いのニットにスカートを合わせ、女性らしい色気がある。
 三者三様で方向性は違うが、全員デザイナーだ。

「改めまして、赤松香澄です。二十七歳です。どうぞ宜しくお願い致します」

 ペコリと頭を下げると、三人からニヤニヤとした笑いをもらう。

「え……っ?」

「社長、ぶっちゃけ赤松さん、お気に入りですか?」

 佑の隣に座った荒野が尋ね、香澄はフォークに巻いて口に入れたカルボナーラを噴きだしそうになる。

「社長秘書に選んだからには、有能な人だと思っているよ」

「えぇ~? なーんか、さっき観察してたら、もっと親しげな雰囲気を醸し出してたんですけど?」

 成瀬がさらに絡み、香澄はドキドキしながら黙々とフォークを動かす。

(うっかり口を開けない奴だこれ……)

「ふぅーん? まぁ、そのうち観察して二人の関係を丸裸にさせてもらいますけどねー」

 水木が指で輪を作り、その間から佑を見てにんまり笑う。

(うう!)

「いやぁ、私たち彼氏いるから社長の事は鑑賞目的なんだけど、社長に早くいいお相手が見つかればいいなーって思ってたから、赤松さんには期待してるね?」

 隣から成瀬がポンポンと肩を叩いてくる。

「う、うぅ……そんな、ただの秘書ですし」

「社長と秘書っていい響きだよねぇ……」

 香澄の言葉を聞かず、荒野がにんまりと笑う。

「ごめんねぇ。私たち、社長に関するゴシップが大好きで。でも赤松さんと社長の間に本当に何かあるなら、応援したいな」

 水木に言われるも、反応のしようがない。

「私はただの秘書ですし……」

 この言葉も二回目だ。

「まぁ、赤松さんが他に彼氏がいて、社長なんて眼中にないならいいんだけどね? 余計な事を言ってごめん」

 成瀬の言葉を聞き、思わず佑が軽く瞠目して彼女を見た。

 ――と、成瀬がニヤァ……と笑う。

「ビンゴ! 少なくとも社長は赤松さんに気がある!」

(佑さんーっ!)

 思わず顔に出た佑を、香澄はクワッと目を見開いて睨む。

「よし、赤松さんも顔に出た! いいねぇ、アイコンタクトし合う二人……」

(あああああああああ)

 香澄はガックリと項垂れ、それでもモグモグと口を動かす。

「まーぁあ? 詳しい事はあとで個人的な歓迎会で聞くとして……。赤松さん、連絡先交換しよ」

 成瀬がスマホを取りだしたので、香澄もつい「はい」と素直に連絡先を交換する。
 成瀬はすぐにこの場にいる女性四人のトークルームを作ってくれ、全員口を動かしながら『よろしくー』とスタンプを送り合った。

「社長? 羨ましいなら、女子同士の新歓飲み会、仲間に入れてあげますよ」

 荒野がそれはフランクに佑に言い、香澄は「社長なのにいいのかな?」と内心ヒヤヒヤする。

「考えておくよ。あまり、人に話を聞かれない場所でなら」

 珍しく佑が苦笑いして引き気味になっているので、余程この三人の勢いと熱気に押されているのだろう。

「勿論、社長のおごりでいい店待ってますね~」

「はいはい」

 会話が盛り上がっている間にも、佑の隣には松井が戻っていて、蕎麦を啜っている。

「よしっ、言質を取った!」

 三人は顔を見合わせてサムズッアップし、本格的に昼食に取り掛かる。

(勢いのある人たちだな。デザイナーって言ったら、これぐらいバイタリティがないとできないのかもしれない)

 カルボナーラは丁度いい塩味で、チーズもこだわっているのかとても美味しい。
 サラダを選んだ時も、別の場所でドレッシングが何種類もあり、見た限り手作りの物らしかった。

「ねぇ、赤松さん。ちょっと忠告なんだけど」

 それまで遠慮なく話していた成瀬が、隣からボソッと囁いてくる。

「はい?」

「周りをキョロキョロしないで聞いてほしいんだけど、社長が座っている席の後ろの後ろのテーブルあるでしょ?」

「はい」

「そこに、赤い服を着た一見いい女っぽいのと、仲間たちがいるんだけど、あの人たちは関わらない方がいいからね」

 言葉の内容に思わずドキッとし、香澄は目だけでそちらを見る。
 視線の先に人が重なっていて、顔まではよく分からないが、確かに赤いニットを着た美人そうな女性がスパゲッティを食べている。

「あいつ、飯山安奈(いいやまあんな)って言うんだけど、利穂と同じFeminineのチームで働いてるんだよね。でもすっごいやな奴だから、ホント関わらない方がいいよ」

 こういう事になると、成瀬もあまり佑に聞かれたくないと思っているのか、声量を落としている。

「誰かの悪口を言う奴からは、距離を取った方がいいっていうのは常識だけど、こればかりは本当に忠告。利穂も芽衣も私も、実際嫌がらせをされたから言ってるの」

「な、何が原因だったのか、お聞きしても大丈夫ですか?」

 ボソボソッと尋ね返すと、成瀬は視線を天井に向けペロッと舌を出してから、決定的な言葉を口にする。

「社長しかいないでしょ」

「あ……」

 自分がいかに馬鹿な質問をしたのか思い知り、香澄は思わず「すみません……」という気持ちになる。

「分かってると思うけど、社長は芸能人並みにファンがいるよ。それに社員だからこその近さで、『自分ならいける』って思ってる人もいる。社長はいつもこんな感じでフランクだし、年齢も近くてすごく話しやすい。たまに一緒に飲んでくれる事もあるし、個人的な話もたまに聞いてくれる。そういう〝近さ〟が、勘違いを生んでるんだと思う」

「あー……」

(罪作りだなぁ……)

 香澄が考えた事を、成瀬も口にする。

「すんごい罪作りでしょ? でも男性社員や社長を異性として見てない女性社員とかは、この距離感と会社の雰囲気で、すっごい働きやすいって言ってる。だからまぁ、諸刃の剣だね」

「なるほど……」

「私たちは見ての通り社長と親しくさせてもらってるから、飯山たちはそれが気に入らないみたい。何か、根も葉もない悪い噂を流されたり、社員からの意見BOXとかでめちゃくちゃ悪口書かれてたわ」

「あー……」

 どこの世界でもあるんだな、と思い、香澄は少し暗い気持ちになる。

「まぁ、上司に話を聞かれても、ありのままを話したら信じてくれたけど。上司も社長が女性社員の争いの種になるのは、よく分かってるみたいだし」

「罪な男ですね……」

「そ、罪な男なの。で、飯山たちは社長を想ってる女性社員の中でも、特に過激派だから気を付けてって言いたかったの。言っておくけど、私たち、基本的に根も葉もない人の悪口言わないからね? 自分が経験者だから、忠告してるだけ。余計なお世話かもだけど、情報があった方が生きやすい時ってあるし」

「そうですね。ありがとうございます」

 実際、飯山という人と話してみないと何とも言えないが、彼女が成瀬たちに嫌な事をしたのは事実なのだろう。
 だからと言って飯山を嫌う事はしないが、慎重に接しようとは思った。

(取り越し苦労だといいな)

 香澄だって、噂だけで人を判断したくない。

 それでも成瀬たちの痛みからの忠告はありがたく受け取り、その後、佑と松井も含め、全員で楽しくおしゃべりをしてランチタイムを過ごした。



**
< 10 / 33 >

この作品をシェア

pagetop