【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2
香澄ちゃん頑張ってね
「いいえ。皆さんが社長を大切にしてくださっているのが分かって、嬉しいです」
本心からの言葉を言うと、それまで黙っていた矢崎が口を開いた。
「いざとなれば全部暴露して、赤松さんに手を出す社員は減俸とか言っておけばいいんですよ。横暴と言われるでしょうけど、それ位やらないと分からない輩もいますし」
「矢崎さんは相変わらず発想が過激ですね」
その隣で本城が笑う。
「いつだったか、女性社員の中で抗争みたいなの起きたじゃないですか。たまたま所要があって本社ビルを訪れた私まで巻き込まれて……。仕事をする場所であんなくだらないもめ事が起こるぐらいなら、いっそ全員減俸にすればいいんです」
矢崎は眉間に皺を寄せ、日本酒をグイッと呷ってから溜め息をつく。
(わぁ……。相当な何かがあったんだな……)
渦中の人でありながら、その件については蚊帳の外である香澄は、どこか居心地悪くなりながらも黙っているしかない。
「まぁまぁ、矢崎さん。赤松さんが怯えてるじゃないですか」
本城に言われ、矢崎は溜め息をつき、「すみません」と謝ってくる。
「い、いえ! 皆さんが私の登場により、引き起こされる問題を心配されるのは、当たり前だと思っています」
「皆が心配してくれるのは、本当にありがたいと思います」
その流れで、佑が口を開いた。
「真澄や朔たちが心配してくれるのも分かるし、その節は矢崎さんにご迷惑をお掛けしてしまったのは、本当に申し訳なく思っています。ですが、香澄は俺が見いだしていずれ結婚したいと思っている女性です。彼女を自分の側に置きたいと思ったのも俺の我が儘ですし、自分が招いた事については、きちんと自分で処理します。彼女は俺が守ってみせます」
佑が誰かに自分の事をこう言っているのを聞くのは、どこか恥ずかしい。
「秘書たちを皮切りに、他の女性社員たちに話が広まっていくのも想定しています。だがそれを押してでも、俺は香澄に側にいてほしいと思っています。出会ったばかりで、彼女を一分一秒でももっと知りたいと思うからこそ、他の会社に就職させず秘書にする事を決めました」
佑の覚悟を知り、香澄は自分ももっとちゃんとしないとと、ますます思う。
「時間は有限です。俺はただでさえ多忙であるという自覚があります。だからこそ、せっかく東京に呼び寄せた香澄とすれ違う時間を作りたくありません。一緒に住んで、職場でも近くにいてもらって、そして彼女を知って結婚したいと思う女性で間違いないと確信したいんです」
彼の言うことを聞き、香澄は「確かに……」と思った。
そして真澄が同意する。
「確かにそりゃそうだな。お前のスケジュールで生活してたら、女性と仲良くなるのには、同居して職場も一緒で……っていうのが一番の条件だ。出張も多いけど、同行できる秘書ならクリアできる」
次に出された茶碗蒸しに匙を入れ、朔も同意する。
「まぁ、佑がそこまで言うなら見守るし、できる限り香澄ちゃんを守るのに協力するよ。浮ついてた社員たちも、香澄ちゃんが不動の存在になったら諦めるんじゃないか? いつまでも夢を見させておくより、ずっといいよ」
「ありがとう」
佑が朔に礼を言ったあと、茶碗蒸しの器を空にした真澄が「うーん」と腕を組んで唸る。
彼が香澄をまじまじと見てくるので、思わずビクッとして返事をした。
「な、何でしょう!?」
すると真澄はパンッと手を合わせ、拝むように頭を下げる。
「ごめん! 意地悪言いたいんじゃないけど、香澄ちゃん頑張ってね? 多分、社員や佑を狙ってるモデルや女優たちが納得するような存在にならないと、周りはいつまでも佑を諦めない気がする」
「真澄、そういう余計な事を言うな」
佑がすかさず注意するが、香澄は「いえ」と佑の腕に手を掛ける。
「真澄さんの仰る通りです。皆さんに認めて頂けるように女性になれるよう、努力するしかありません」
気合いを入れて言ったのだが、佑が溜め息をつき香澄の背中をトントンとさすってきた。
「そういう意気込みはいいんだ。香澄にはただ自然体で側にいてほしい。必要以上に頑張る必要はない。そもそも、他の女性が納得する存在になるって、何だ? 彼女たちは俺の何だ? 香澄と俺が付き合うのに、他人の許可がいるのか?」
逆に尋ねられ、香澄は言葉を失う。
「香澄が俺と付き合うのに、誰の許しも要らない。要るとしたら、お互いの家族に報告するぐらいだ。それも、この歳になって同棲するとか結婚相手を見つけたとか、親にいちいち断るものじゃない」
あまりの正論に、香澄はまた何も言えなくなった。
自分は必死に「周りに認めてもらえるよう頑張ろう」と思っているのに、佑はそれを「必要ない」と言ってくる。
自分にない意見を言われて、彼女の思考はしばし止まっていた。
「……ごめん。佑の言う通りだな。二人の問題であって、外野が余計な心配をするもんじゃなかった」
真澄はすぐに考えを改め、香澄にもう一度「ごめんね」と謝る。
「いえ……」
そのあと、氷が敷き詰められた上に屋形船を模した器に、造りがのせられて出される。
口に入れた本マグロはとろけてしまいそうなぐらい美味しいのに、まじめな話をしているからか、あまり味わえない。
そこに矢崎が口を挟んでくる。
「大体、ああいう手合いは自分の望みが叶うまで、誰が何をどうしても、不満を言い続けるもんですよ。赤松さんが何をどれだけ努力しても無駄です」
努力しても無駄ときっぱり言われ、香澄は矢崎の雰囲気に気圧され「はい……」と頷く。
「彼女たちの望みは、ライバルとなる女性が自分の視界から永遠に退場する事です。そこまで付き合えますか? 他人に遠慮するのを優先して、自分の人生や幸せ、仕事を犠牲にできますか? 赤松さんが社長の側からいなくなっても、彼女たちは次のターゲットを見つけて同じ事を繰り返すんですよ? そして赤松さんが失ったものの責任を、何も取りません」
「……それは、嫌です」
「でしょう? ならもっとふてぶてしく生きればいいと思いますよ。どうも赤松さんは繊細すぎる印象があります。『社長の隣にいて何が悪いの?』ぐらいの雰囲気を出してもいいと思います。私、それぐらい強い女性が好きですので」
最後は矢崎の好みの女性の話になり、周りが「矢崎さんだよ……」と笑う。
チラッと矢崎の指を見ると、結婚指輪をしているので、恐らく妻がそういう人なのかもしれないと思った時……。
「ああいう事を言っておきながら、矢崎さんの奥さんはとても可愛らしい人で、愛妻家だよ」
佑がコソッと囁いてきて、香澄は思わず微笑んだ。
(皆、いい人だな。Chief Everyのグループ会社の業績がいいのも、頷ける気がする。こうやって上層部がアットホームな感じで話し合ってたら、きっと経営も上手くいくのかもしれない)
その後、ロブスターや牛ステーキが出たあと、鯛の炊き込み御飯が出てようやくデザートだ。
(お腹一杯……)
ふと、同行したはずの松井たちはどうしたのか、今さらになって疑問になった。
いま話している人たちへの意識で一杯になり、すっかり忘れてしまっていた。
「社長、松井さんたちは?」
「さっきから言おうと思ってたけど、重役の前でもプライベートの時は普通に名前呼びでいいよ」
「は、はい。佑さん」
「松井さんや護衛たちは、このメンツの秘書や護衛たちと一緒に、別室で食事をしているよ」
「あ、そうなんですね」
合計すると相当な人数なのに、面倒を見るのはさすがだと感心する。
それからしばらく、香澄の事とはまったく関係ない世間話が続き、食後のコーヒーやお茶などを飲む。
やがて矢崎が「そろそろ」と腕時計を見ながら立ち上がり、お開きの頃合いになる。
「今日はどうもありがとうございました。まだまだ未熟な秘書ですが、どうぞ宜しくお願い致します」
最後に香澄は、座椅子から下りて畳の上で正座をし、改めて全員に頭を下げた。
「何だかもう嫁入りするみたいですねぇ。いやぁ、可愛い。私は応援していますからね」
本城が微笑み、「そんなに畏まらなくても私たちは全員味方ですよ」と香澄の肩を叩いてくる。
誰かが別室の秘書たちに連絡を入れたらしく、香澄たちが個室を出た頃には秘書や護衛たちが廊下に立っていた。
佑がカードで支払いをし、全員が彼に「ご馳走様でした」とお礼を言う。
やがて外に出る頃には車が回され、二人は後部座席に乗り込んだ。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「どう致しまして。でも、ごめんな?」
「何がです?」
高級なコース料理のお礼を言ったのに逆に謝られ、香澄は首を捻る。
「せっかくの料理だったのに、必要な事とはいえあまり面白くない話で終わってしまった。今度どこかに連れて行く時は、食事を楽しめるよう配慮するから」
「そんな……。皆さん本当に佑さんを大切に思っていて、私の事も真剣に考えてくださいました。なので今日は有意義なお食事会でしたよ?」
「そう言ってくれてありがとう。今度集まる時は、もっと楽しい会話ができたらいいな」
佑はポンポンと香澄の頭を撫で、車のシートに身を預けて脚を組む。
しばらく車中に沈黙が落ちたが、香澄がそっと尋ねる。
「お疲れじゃないですか?」
「なんで?」
薄闇の中、佑の目が外の灯りを反射して微かに光る。
本心からの言葉を言うと、それまで黙っていた矢崎が口を開いた。
「いざとなれば全部暴露して、赤松さんに手を出す社員は減俸とか言っておけばいいんですよ。横暴と言われるでしょうけど、それ位やらないと分からない輩もいますし」
「矢崎さんは相変わらず発想が過激ですね」
その隣で本城が笑う。
「いつだったか、女性社員の中で抗争みたいなの起きたじゃないですか。たまたま所要があって本社ビルを訪れた私まで巻き込まれて……。仕事をする場所であんなくだらないもめ事が起こるぐらいなら、いっそ全員減俸にすればいいんです」
矢崎は眉間に皺を寄せ、日本酒をグイッと呷ってから溜め息をつく。
(わぁ……。相当な何かがあったんだな……)
渦中の人でありながら、その件については蚊帳の外である香澄は、どこか居心地悪くなりながらも黙っているしかない。
「まぁまぁ、矢崎さん。赤松さんが怯えてるじゃないですか」
本城に言われ、矢崎は溜め息をつき、「すみません」と謝ってくる。
「い、いえ! 皆さんが私の登場により、引き起こされる問題を心配されるのは、当たり前だと思っています」
「皆が心配してくれるのは、本当にありがたいと思います」
その流れで、佑が口を開いた。
「真澄や朔たちが心配してくれるのも分かるし、その節は矢崎さんにご迷惑をお掛けしてしまったのは、本当に申し訳なく思っています。ですが、香澄は俺が見いだしていずれ結婚したいと思っている女性です。彼女を自分の側に置きたいと思ったのも俺の我が儘ですし、自分が招いた事については、きちんと自分で処理します。彼女は俺が守ってみせます」
佑が誰かに自分の事をこう言っているのを聞くのは、どこか恥ずかしい。
「秘書たちを皮切りに、他の女性社員たちに話が広まっていくのも想定しています。だがそれを押してでも、俺は香澄に側にいてほしいと思っています。出会ったばかりで、彼女を一分一秒でももっと知りたいと思うからこそ、他の会社に就職させず秘書にする事を決めました」
佑の覚悟を知り、香澄は自分ももっとちゃんとしないとと、ますます思う。
「時間は有限です。俺はただでさえ多忙であるという自覚があります。だからこそ、せっかく東京に呼び寄せた香澄とすれ違う時間を作りたくありません。一緒に住んで、職場でも近くにいてもらって、そして彼女を知って結婚したいと思う女性で間違いないと確信したいんです」
彼の言うことを聞き、香澄は「確かに……」と思った。
そして真澄が同意する。
「確かにそりゃそうだな。お前のスケジュールで生活してたら、女性と仲良くなるのには、同居して職場も一緒で……っていうのが一番の条件だ。出張も多いけど、同行できる秘書ならクリアできる」
次に出された茶碗蒸しに匙を入れ、朔も同意する。
「まぁ、佑がそこまで言うなら見守るし、できる限り香澄ちゃんを守るのに協力するよ。浮ついてた社員たちも、香澄ちゃんが不動の存在になったら諦めるんじゃないか? いつまでも夢を見させておくより、ずっといいよ」
「ありがとう」
佑が朔に礼を言ったあと、茶碗蒸しの器を空にした真澄が「うーん」と腕を組んで唸る。
彼が香澄をまじまじと見てくるので、思わずビクッとして返事をした。
「な、何でしょう!?」
すると真澄はパンッと手を合わせ、拝むように頭を下げる。
「ごめん! 意地悪言いたいんじゃないけど、香澄ちゃん頑張ってね? 多分、社員や佑を狙ってるモデルや女優たちが納得するような存在にならないと、周りはいつまでも佑を諦めない気がする」
「真澄、そういう余計な事を言うな」
佑がすかさず注意するが、香澄は「いえ」と佑の腕に手を掛ける。
「真澄さんの仰る通りです。皆さんに認めて頂けるように女性になれるよう、努力するしかありません」
気合いを入れて言ったのだが、佑が溜め息をつき香澄の背中をトントンとさすってきた。
「そういう意気込みはいいんだ。香澄にはただ自然体で側にいてほしい。必要以上に頑張る必要はない。そもそも、他の女性が納得する存在になるって、何だ? 彼女たちは俺の何だ? 香澄と俺が付き合うのに、他人の許可がいるのか?」
逆に尋ねられ、香澄は言葉を失う。
「香澄が俺と付き合うのに、誰の許しも要らない。要るとしたら、お互いの家族に報告するぐらいだ。それも、この歳になって同棲するとか結婚相手を見つけたとか、親にいちいち断るものじゃない」
あまりの正論に、香澄はまた何も言えなくなった。
自分は必死に「周りに認めてもらえるよう頑張ろう」と思っているのに、佑はそれを「必要ない」と言ってくる。
自分にない意見を言われて、彼女の思考はしばし止まっていた。
「……ごめん。佑の言う通りだな。二人の問題であって、外野が余計な心配をするもんじゃなかった」
真澄はすぐに考えを改め、香澄にもう一度「ごめんね」と謝る。
「いえ……」
そのあと、氷が敷き詰められた上に屋形船を模した器に、造りがのせられて出される。
口に入れた本マグロはとろけてしまいそうなぐらい美味しいのに、まじめな話をしているからか、あまり味わえない。
そこに矢崎が口を挟んでくる。
「大体、ああいう手合いは自分の望みが叶うまで、誰が何をどうしても、不満を言い続けるもんですよ。赤松さんが何をどれだけ努力しても無駄です」
努力しても無駄ときっぱり言われ、香澄は矢崎の雰囲気に気圧され「はい……」と頷く。
「彼女たちの望みは、ライバルとなる女性が自分の視界から永遠に退場する事です。そこまで付き合えますか? 他人に遠慮するのを優先して、自分の人生や幸せ、仕事を犠牲にできますか? 赤松さんが社長の側からいなくなっても、彼女たちは次のターゲットを見つけて同じ事を繰り返すんですよ? そして赤松さんが失ったものの責任を、何も取りません」
「……それは、嫌です」
「でしょう? ならもっとふてぶてしく生きればいいと思いますよ。どうも赤松さんは繊細すぎる印象があります。『社長の隣にいて何が悪いの?』ぐらいの雰囲気を出してもいいと思います。私、それぐらい強い女性が好きですので」
最後は矢崎の好みの女性の話になり、周りが「矢崎さんだよ……」と笑う。
チラッと矢崎の指を見ると、結婚指輪をしているので、恐らく妻がそういう人なのかもしれないと思った時……。
「ああいう事を言っておきながら、矢崎さんの奥さんはとても可愛らしい人で、愛妻家だよ」
佑がコソッと囁いてきて、香澄は思わず微笑んだ。
(皆、いい人だな。Chief Everyのグループ会社の業績がいいのも、頷ける気がする。こうやって上層部がアットホームな感じで話し合ってたら、きっと経営も上手くいくのかもしれない)
その後、ロブスターや牛ステーキが出たあと、鯛の炊き込み御飯が出てようやくデザートだ。
(お腹一杯……)
ふと、同行したはずの松井たちはどうしたのか、今さらになって疑問になった。
いま話している人たちへの意識で一杯になり、すっかり忘れてしまっていた。
「社長、松井さんたちは?」
「さっきから言おうと思ってたけど、重役の前でもプライベートの時は普通に名前呼びでいいよ」
「は、はい。佑さん」
「松井さんや護衛たちは、このメンツの秘書や護衛たちと一緒に、別室で食事をしているよ」
「あ、そうなんですね」
合計すると相当な人数なのに、面倒を見るのはさすがだと感心する。
それからしばらく、香澄の事とはまったく関係ない世間話が続き、食後のコーヒーやお茶などを飲む。
やがて矢崎が「そろそろ」と腕時計を見ながら立ち上がり、お開きの頃合いになる。
「今日はどうもありがとうございました。まだまだ未熟な秘書ですが、どうぞ宜しくお願い致します」
最後に香澄は、座椅子から下りて畳の上で正座をし、改めて全員に頭を下げた。
「何だかもう嫁入りするみたいですねぇ。いやぁ、可愛い。私は応援していますからね」
本城が微笑み、「そんなに畏まらなくても私たちは全員味方ですよ」と香澄の肩を叩いてくる。
誰かが別室の秘書たちに連絡を入れたらしく、香澄たちが個室を出た頃には秘書や護衛たちが廊下に立っていた。
佑がカードで支払いをし、全員が彼に「ご馳走様でした」とお礼を言う。
やがて外に出る頃には車が回され、二人は後部座席に乗り込んだ。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「どう致しまして。でも、ごめんな?」
「何がです?」
高級なコース料理のお礼を言ったのに逆に謝られ、香澄は首を捻る。
「せっかくの料理だったのに、必要な事とはいえあまり面白くない話で終わってしまった。今度どこかに連れて行く時は、食事を楽しめるよう配慮するから」
「そんな……。皆さん本当に佑さんを大切に思っていて、私の事も真剣に考えてくださいました。なので今日は有意義なお食事会でしたよ?」
「そう言ってくれてありがとう。今度集まる時は、もっと楽しい会話ができたらいいな」
佑はポンポンと香澄の頭を撫で、車のシートに身を預けて脚を組む。
しばらく車中に沈黙が落ちたが、香澄がそっと尋ねる。
「お疲れじゃないですか?」
「なんで?」
薄闇の中、佑の目が外の灯りを反射して微かに光る。