【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2

母からの電話

 官能的な口づけを受けていると、佑が香澄の胸を優しく揉んでくる。
 は……、と濡れた息をつき、佑が囁いた。

「我が家のルールを決めようかな? 家で仕事をしたらベッド行きとか」

 際限のない彼の体力を思いだし、香澄は真っ赤になって首を横に振る。

「む……っ、無理、です」

「そうか? 無理とは思えないけど」

 彼は妖艶に笑い、香澄の首筋やデコルテにキスを落として囁いた。

「けど、今は〝ペナルティ〟だから大人しく抱かれておいて」

 美しい彼の微笑みを見て、香澄は自分が大きな墓穴を掘ったのを自覚したのだった。



**



 翌日、二月一日の土曜日、昨晩の延長で惰眠を貪っていると、佑のスマホが着信を告げた。

「ん……」

 佑はうなり、腕を伸ばす。
 香澄もその音で目が覚めたらしく、隣でモゾモゾと身じろぎしている。

「……はい」

 佑は寝ぼけた声で返事をし、起き上がって座った状態で電話を始める。
 時刻を確認すると七時を過ぎていて、休日ではあるものの、起きている人は普通に起きている時間帯だ。

『佑? まだ寝てたの?』

 朝からテンションが高いこの声は、母だ。

 通名、御劔アンネ。

 世界に名だたる高級車ブランド、クラウザー社の令嬢であり、投資家。
 佑の実家は品川区の池田山(いけだやま)にあり、品格のある土地に立派な一軒家が建っている。

 彼の父は言ってしまえば一般人で、現在も地方公務員として働いている。
 佑の祖母が日本人である関係から、アンネが親日家で何度も来日している折り、二人が出会ったらしい。

 そしてアンネのアプローチにより佑の父である(まもる)と結婚し、クラウザー家と祖母の実家の後ろ盾もあり、高級住宅地に家ができた流れだ。

 佑の祖母、節子(せつこ)の実家は、国産車の世界シェア率一位を誇るタケモトグループで、佑はブランド車会社関係者を祖父母に持つサラブレッドだった。

 アンネは自由奔放な性格で、マイペースかつ、やや女王様気質だ。
 父は温厚な性格でアンネのどんな言動も行動も、大体は受け入れる人だが、佑は息子であるがゆえにたまに母に反発してしまう時がある。

 佑はクォーターだし、普通の日本人男性にしては海外との接点が多くあり、考え方も少し違っている。
 だが根本的な部分は日本人そのもので、個人主義である母をたまに「我が儘」と思ってしまう事もあり、場合によっては喧嘩してしまう事があった。

 今は大人になり自立したのだし、お互い別の家でそれぞれの人生を……という事で、平穏に生きてはいるのだが。

(何だか嫌な予感がする)

 母の声を聞いて少し不機嫌そうと感じたのは、息子ならではの勘だ。

「寝てた。休日だからもう少し遅い時間に連絡をくれても良かったのに」

 布団の中から香澄が気遣う目を向けてくるので、佑は黙って彼女の頭を撫でた。

『色々言いたい事があるんだけど、今日は出てこられる? あなたの家に行ってもいいんだけど』

「あー……、行く」

 香澄を紹介できたらと思っていたが、このタイミングは駄目だとすぐに判断した。

 香澄は東京に来て日が浅く、まだ自分と結婚する決意も固まっていない。
 彼女の様子を見て、自分を好きになってくれて結婚も視野に入った頃、改めて食事の場を設けて両親に紹介できたらと思っていた。
 だが、妙に鋭いところのある母が、休日の朝に電話を掛けてきたタイミングで「実は女性と同棲しています」など打ち明けたら悲惨なルートを選択しそうだ。

「どこに行けばいい? 家?」

『家でいいわ。もうすぐバレンタインだから、何かチョコレートを買ってきてちょうだい』

 相変わらずの母に、佑は一瞬目を閉じて項垂れ「分かった」と返事をする。

「まだ飯も何も食べてないから、昼過ぎに行く」

『分かったわ』

 要点が決まるとすぐに電話が切れるのも、母の特徴だ。

「……ご家族?」

 電話が終わり、香澄がソロッと尋ねてくる。

「ん、母だ」

 その言葉だけで香澄の表情が微妙に変わったので、先に説明しておく事にする。

「気になるかもしれないけど、今日は顔を出さなくていいから。呼ばれたのは俺だし、香澄を紹介するのは、きちんと二人の気持ちが決まってから改めて場を設けたい」

「……はい」

 それももっともだと思ったのか、香澄は素直に頷いてくれる。
 佑は無意識に息をつき、わしわしと頭を掻く。

「先に謝っておくけど、うちの母親は少し強烈な人なんだ。悪い人じゃないし、攻撃的でもないけど、思った事を何でも口にする。ドイツと日本のミックスだけど、生まれ育ちは向こうだ。日本人的に相手を察するというのが苦手な人でもある」

「分かりました。念頭に置いて、お会いする時は対応できるようにしたいです」

(……まだ秘書っぽい受け答えをするんだよなぁ……)

 香澄の返事を聞いて思いつつ、まだ始まったばかりだから、少しずつ慣れていけたらと思う。

「朝飯の準備しようか」

「はい」

 香澄は起き上がろうとするが、「ん……」と呻いたあと、緩慢な動作でずり、ずり、と身を起こす。

「腰痛い?」

「大丈夫です」

 香澄は微笑むものの、体調が万全ではないのは雰囲気から分かる。

(正直、あそこまで燃えて女性を抱いたのも、ここしばらくないからな……。あんまり無理させないように気を付けよう)

 本当なら毎日抱き潰したいほどだが、それでは香澄が可哀想だし、彼女も仕事ができない。
 必死に欲望を抑えているものの、週末のセックスで少し本気になっただけで、こんなにダメージがあるというのも、いまだ香澄を把握しきれていないのだと思う。

(昔は相手を大切にしようとか、あまり考えていなかったもんな)

 黒歴史の時代をチラッと思い出しかけ、佑はすぐに意識を切り替える。

「着替え、持ってくるよ。適当でいい?」

「はい」

「着せてあげてもいい?」

「それは遠慮します!」

 サッと赤面する香澄を見て、佑はクツクツ笑う。

「そう言うと思った。部屋、入るから」

 断ったあと、佑はベッドから下りて下着の上にスウェットパンツを穿き、彼女の部屋に向かう。
 クローゼットを開け、休日だしリラックスできる物がいいだろうと判断し、彼女が普段選んでいる物も考慮する。
 最終的に選んだのは、黒地に白のラインパンツに、引き出しから出した適当なTシャツ、その上に着るオーバーサイズのパーカーだ。
 温かそうな素材の靴下も持ってベッドルームに戻ると、香澄はベッドの上でポケーッと座っている。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「俺は身支度をしたら、近所のパン屋に自転車で行ってくるから、シャワー入ったりしてていいよ。戻ったら適当にスープとかサラダも作るし」

「あ……」

「手伝わなくてOK。足腰立つようになったら、リビングに下りて?」

 念を押された香澄は「はい」と頷く。

 そんな彼女の頭をクシャクシャと撫でてから、佑は自分も白Tを着て、洗面所で顔を洗う。
 軽くうがいをしたあと、手で寝癖を整え、パーカーを着てブルゾンを羽織ったあと、一階に下りる。

 リビングダイニングの暖房の入り具合をチェックしたあと、玄関脇にある自転車用ガレージから籠つきの白いクロスバイクを出した。

 途中で離れに立ち寄り、円山にパンを買いに行く旨を伝えたあと、敷地を出てサーッとこぎ出した。
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