【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2
御劔家の家族
朝食を終えたあと、香澄に急遽実家に行く事を伝えると、彼女は「たまには親御さんに顔を見せないと駄目ですよね」と何の抵抗もなく頷いてくれた。
佑としては「休日だからもっと一緒にいたい」と言ってほしいところだが、香澄はまだそこまで甘えてくれない。
地下室のシアタールーム含め、家で自由に過ごしてほしいと告げたあと、佑はテーパードパンツにシャツにセーター、その上にチェスターコートを着て家を出た。
時間までに小金井に来てもらい、途中でチョコレートショップに寄って母のために土産を買う。
そして池田山にある実家に着いたのは十三時ほどだった。
特にチャイムもなく自分で持っている鍵で玄関のドアを開けると、「ただいま」と告げて上がり込んだ。
リビングダイニングに続くドアを開けると、父がソファに座ってテレビを見ていた。
父は身長は百八十センチメートル以上あり、学生時代はバスケットボールをやっていたスポーツマンだ。
だが性格は温厚で、若かりし日のアンネは紳士的なところに惹かれたのだと言う。
母はその隣でタブレット端末を見ているが、恐らく株価のチャートを見ているのだろう。
アンネも身長が高く、百七十五センチメートル近くはある。
数字だけで言えば痩せている部類なのだが、骨格がガッシリしているため体が大きく見える。
顔立ちは釣り眉で、くっきり二重のブルーグレーの眼力が強く、圧がある。
祖母が日本人なので母の兄弟たちは祖父と比べると、若干アジアの血が入った雰囲気だが、優性遺伝を無視してドイツ系の雰囲気がハッキリ出ている。
雰囲気は女社長と言って通じる感じで、品があり女性らしい服装を好んでいる。
髪もロングヘアで、元々癖がついている髪を生かしてパーマを掛けていた。
現在アンネは五十九歳だが、いまだ衰えぬ美貌があり美魔女と言われている。
ちなみに衛は年下の夫で五十六歳だ。
「昼飯は食ったんだろ?」
「ええ、食べたけど。あなたもどうせ食べてきたんでしょう?」
「ああ。はい、チョコ」
高級感のある紙袋をポンとテーブルの上に置くと、母のアンネは「ありがと」と言って立ち上がり、キッチンに向かう。
実家でも基本的に家事は家政婦に任せている。
アンネ自身、料理を作らない訳ではなく、佑も子供時代はドイツ料理や練習中の日本料理を沢山食べた。
だがアンネもそのうち「金があれば家事を〝買って〟自分は稼ぐ」という効率を重視し、衛も特に手料理にこだわっていないため、家政婦を雇う事になった。
父の本音は「たまにアンネさんの手料理を食べたいし、二人で料理を作りたい」だから、現在でも時々そうしているらしい。
だが大きな邸宅である上、ドイツ時代のアンネはもちろん家政婦に任せていたため、掃除などは人にやってもらうのが当たり前になっていた。
そんな流れで、基本的に御劔家では家政婦を雇う事に抵抗がない。
だが佑を育てる上でのアンネの主張は、「何かあっても飢えないように、料理スキルは身につけなさい」だったので、佑も基本的な料理はできる。
アンネはキッチンでお湯を沸かし、冷凍庫にしまってあるコーヒー豆の中から、何を淹れるか吟味していた。
コートを脱いだ佑はチョコレートの箱を出し、キッチンに向かってチョコレートに合いそうな小皿を出す。
家族で食べるのは勿論、こういう時に母のために買うチョコレートは、一番多く入っている箱を買うのが鉄則だ。
アンネは無類のチョコレート好きで、家には専用の冷蔵庫もある。
ならわざわざ買わせなくていいじゃないかと思うが、自宅にある物は自分の気分とタイミングで食べたいらしい。
やがてアンネがコーヒーを淹れ、全員の前に個人のマグカップが置かれる。
「……で、話って何?」
実家の自分の席であるソファの定位置に座り、佑が尋ねる。
「あなた、期限までに返事しなかったでしょう」
ジロリとアンネに睨まれ、佑は必死に記憶をたぐる。
「いつまでもあなたがフリーだから、私なりに良縁があればと、あちこちお嬢さんとの食事をセッティングしようとしているんじゃない。いつなら空いているか返事がほしいって言ったのに、正月以降まったく連絡がないったら」
「あ……!」
そう言えばそんな事もあったと思い出し、佑は内心舌を出す。
正直、仕事と香澄との新生活で忙しくて、それ以外の事まで配慮できなかった。
基本的に佑の生活は仕事関係と友人優先に動いていて、実家や親戚からの連絡は後回しにしがちだ。
そうなったのも、実家の家族もドイツにいる親戚たちも、全員経済的に確立していて健康で、何の心配もないからだ。
「ごめん、忙しかった」
「まったく……! 次の週末は三連休だから、その日に小野瀬繊維の令嬢との食事を入れたから、それだけは絶対に穴を開けないで頂戴よ」
「えぇ!? 俺、何も言ってないじゃないか」
聞いてない、と佑が声を上げると、脚を組み腕も組んだアンネが睨んでくる。
「『何も言ってない』じゃなくて、『何も聞いてなかった』でしょ」
そう言われると、何とも言いようがない。
「……聞いてなかったのは悪かったけど、困る。俺は……」
香澄がいるから、と言いかけて佑は口を噤む。
(今は話すタイミングじゃない。母の話を聞いていなくて怒らせた時に、香澄の話をしたら、彼女に責任転嫁されそうだ)
「何か言い訳があるの?」
「……ない。俺が悪かった」
溜め息をついて肯定すると、アンネの溜飲はやや下がったようだ。
「とにかく、会うだけでも会って頂戴。気に入らないなら、あなたから直接断ればいい。約束は守る事。いいわね?」
「そうする」
見合い同然の食事なので気が進まないが、自分がうっかり連絡し忘れた間にセッティングされたのなら、行かなければまずい。
(香澄にはあとで事情を話そう)
二重の意味で溜め息をつき、佑はチョコレートを適当に一つ選んで口に入れる。
「澪は?」
二十四歳の妹は化粧品会社に勤務していて、実家で親と同居している。
他にも三十五歳の兄、律と、二十八歳の弟、翔がいる。
まじめで温厚な兄と、自由奔放な弟とお姫様な妹に囲まれ、佑は好きな事をしつつも苦労人気質だ。
既婚者の兄はクラウザー社の日本支社の社長をしていて、独身の弟は同社の管理職をしながら、海外出張で飛び回っている。
モテすぎて男性を見るだけで不機嫌になる妹は、兄弟と親戚だけには愛想がいい。
佑が実家に帰った時、大体澪が奇声を上げて駆けよって飛びついてくるのだが……。
「ああ、さっきフラッと出掛けたわよ」
「そうか」
長男も次男も、それぞれ都内に家を持っている。
先ほどアンネに正月に集まって以来と言われたが、六人家族だと集まっただけで騒がしい。
特に弟と妹のクセが強いので、毎回兄嫁も対応するのが大変そうだなと思っている。
「小野瀬さんとの食事のあと、澪のために時間を空けてあげなさいよ? あの子、今年も兄三人に真剣にチョコレートを選んでいるんだから」
「分かってる」
目下の所、澪の理想の男性像は兄たちらしく、現在彼氏がいない状態だ。
視野が狭い気がするので、妹にもいい人が現れたら……と思っているが、なかなか難しいらしい。
そのあとは普通に家族の雑談が交わされたが、佑は香澄に食事の事を話すのが憂鬱でならなかった。
**
一方、御劔邸のリビングでゴロゴロしながら電子漫画を読んでいた香澄は、チャイムの音が鳴って「あれ?」と顔を上げた。
「もう帰ってきたのかな? ん? でもチャイム……」
そう思いながらも、慌てて玄関に向かう後ろで、内線が鳴った。
「う!」
一瞬どっちに出ようと悩んだが、玄関まで来ている客を寒空の下待たせる訳にいかない。
「はい」
つっかけを足にドアを開けると、目の前に背の高い美女がいた。
「…………へ?」
ワンレングスのロングヘアにパーマを掛けた彼女は、アイラインをキュッとキャットアイ気味にして、チェリーレッドのリップをつけている。
黒いチェスターコートの下には赤いタートルネックニットが見え、首に緩く巻いているラグジュアリーブランドのマフラーも、こなれた感じだ。
「……どちら……さま……でしょう……?」
(佑さんの彼女?)
彼を疑うよりも、目の前のモデルのような美女があまりに美しくて、香澄は固まっていた。
「それはこっちの台詞なんだけど」
だがサクッと突っ込まれ、慌てて我に返る。
その時、女性の後ろから円山が慌ててこちらに走ってくるのが見えた。
佑としては「休日だからもっと一緒にいたい」と言ってほしいところだが、香澄はまだそこまで甘えてくれない。
地下室のシアタールーム含め、家で自由に過ごしてほしいと告げたあと、佑はテーパードパンツにシャツにセーター、その上にチェスターコートを着て家を出た。
時間までに小金井に来てもらい、途中でチョコレートショップに寄って母のために土産を買う。
そして池田山にある実家に着いたのは十三時ほどだった。
特にチャイムもなく自分で持っている鍵で玄関のドアを開けると、「ただいま」と告げて上がり込んだ。
リビングダイニングに続くドアを開けると、父がソファに座ってテレビを見ていた。
父は身長は百八十センチメートル以上あり、学生時代はバスケットボールをやっていたスポーツマンだ。
だが性格は温厚で、若かりし日のアンネは紳士的なところに惹かれたのだと言う。
母はその隣でタブレット端末を見ているが、恐らく株価のチャートを見ているのだろう。
アンネも身長が高く、百七十五センチメートル近くはある。
数字だけで言えば痩せている部類なのだが、骨格がガッシリしているため体が大きく見える。
顔立ちは釣り眉で、くっきり二重のブルーグレーの眼力が強く、圧がある。
祖母が日本人なので母の兄弟たちは祖父と比べると、若干アジアの血が入った雰囲気だが、優性遺伝を無視してドイツ系の雰囲気がハッキリ出ている。
雰囲気は女社長と言って通じる感じで、品があり女性らしい服装を好んでいる。
髪もロングヘアで、元々癖がついている髪を生かしてパーマを掛けていた。
現在アンネは五十九歳だが、いまだ衰えぬ美貌があり美魔女と言われている。
ちなみに衛は年下の夫で五十六歳だ。
「昼飯は食ったんだろ?」
「ええ、食べたけど。あなたもどうせ食べてきたんでしょう?」
「ああ。はい、チョコ」
高級感のある紙袋をポンとテーブルの上に置くと、母のアンネは「ありがと」と言って立ち上がり、キッチンに向かう。
実家でも基本的に家事は家政婦に任せている。
アンネ自身、料理を作らない訳ではなく、佑も子供時代はドイツ料理や練習中の日本料理を沢山食べた。
だがアンネもそのうち「金があれば家事を〝買って〟自分は稼ぐ」という効率を重視し、衛も特に手料理にこだわっていないため、家政婦を雇う事になった。
父の本音は「たまにアンネさんの手料理を食べたいし、二人で料理を作りたい」だから、現在でも時々そうしているらしい。
だが大きな邸宅である上、ドイツ時代のアンネはもちろん家政婦に任せていたため、掃除などは人にやってもらうのが当たり前になっていた。
そんな流れで、基本的に御劔家では家政婦を雇う事に抵抗がない。
だが佑を育てる上でのアンネの主張は、「何かあっても飢えないように、料理スキルは身につけなさい」だったので、佑も基本的な料理はできる。
アンネはキッチンでお湯を沸かし、冷凍庫にしまってあるコーヒー豆の中から、何を淹れるか吟味していた。
コートを脱いだ佑はチョコレートの箱を出し、キッチンに向かってチョコレートに合いそうな小皿を出す。
家族で食べるのは勿論、こういう時に母のために買うチョコレートは、一番多く入っている箱を買うのが鉄則だ。
アンネは無類のチョコレート好きで、家には専用の冷蔵庫もある。
ならわざわざ買わせなくていいじゃないかと思うが、自宅にある物は自分の気分とタイミングで食べたいらしい。
やがてアンネがコーヒーを淹れ、全員の前に個人のマグカップが置かれる。
「……で、話って何?」
実家の自分の席であるソファの定位置に座り、佑が尋ねる。
「あなた、期限までに返事しなかったでしょう」
ジロリとアンネに睨まれ、佑は必死に記憶をたぐる。
「いつまでもあなたがフリーだから、私なりに良縁があればと、あちこちお嬢さんとの食事をセッティングしようとしているんじゃない。いつなら空いているか返事がほしいって言ったのに、正月以降まったく連絡がないったら」
「あ……!」
そう言えばそんな事もあったと思い出し、佑は内心舌を出す。
正直、仕事と香澄との新生活で忙しくて、それ以外の事まで配慮できなかった。
基本的に佑の生活は仕事関係と友人優先に動いていて、実家や親戚からの連絡は後回しにしがちだ。
そうなったのも、実家の家族もドイツにいる親戚たちも、全員経済的に確立していて健康で、何の心配もないからだ。
「ごめん、忙しかった」
「まったく……! 次の週末は三連休だから、その日に小野瀬繊維の令嬢との食事を入れたから、それだけは絶対に穴を開けないで頂戴よ」
「えぇ!? 俺、何も言ってないじゃないか」
聞いてない、と佑が声を上げると、脚を組み腕も組んだアンネが睨んでくる。
「『何も言ってない』じゃなくて、『何も聞いてなかった』でしょ」
そう言われると、何とも言いようがない。
「……聞いてなかったのは悪かったけど、困る。俺は……」
香澄がいるから、と言いかけて佑は口を噤む。
(今は話すタイミングじゃない。母の話を聞いていなくて怒らせた時に、香澄の話をしたら、彼女に責任転嫁されそうだ)
「何か言い訳があるの?」
「……ない。俺が悪かった」
溜め息をついて肯定すると、アンネの溜飲はやや下がったようだ。
「とにかく、会うだけでも会って頂戴。気に入らないなら、あなたから直接断ればいい。約束は守る事。いいわね?」
「そうする」
見合い同然の食事なので気が進まないが、自分がうっかり連絡し忘れた間にセッティングされたのなら、行かなければまずい。
(香澄にはあとで事情を話そう)
二重の意味で溜め息をつき、佑はチョコレートを適当に一つ選んで口に入れる。
「澪は?」
二十四歳の妹は化粧品会社に勤務していて、実家で親と同居している。
他にも三十五歳の兄、律と、二十八歳の弟、翔がいる。
まじめで温厚な兄と、自由奔放な弟とお姫様な妹に囲まれ、佑は好きな事をしつつも苦労人気質だ。
既婚者の兄はクラウザー社の日本支社の社長をしていて、独身の弟は同社の管理職をしながら、海外出張で飛び回っている。
モテすぎて男性を見るだけで不機嫌になる妹は、兄弟と親戚だけには愛想がいい。
佑が実家に帰った時、大体澪が奇声を上げて駆けよって飛びついてくるのだが……。
「ああ、さっきフラッと出掛けたわよ」
「そうか」
長男も次男も、それぞれ都内に家を持っている。
先ほどアンネに正月に集まって以来と言われたが、六人家族だと集まっただけで騒がしい。
特に弟と妹のクセが強いので、毎回兄嫁も対応するのが大変そうだなと思っている。
「小野瀬さんとの食事のあと、澪のために時間を空けてあげなさいよ? あの子、今年も兄三人に真剣にチョコレートを選んでいるんだから」
「分かってる」
目下の所、澪の理想の男性像は兄たちらしく、現在彼氏がいない状態だ。
視野が狭い気がするので、妹にもいい人が現れたら……と思っているが、なかなか難しいらしい。
そのあとは普通に家族の雑談が交わされたが、佑は香澄に食事の事を話すのが憂鬱でならなかった。
**
一方、御劔邸のリビングでゴロゴロしながら電子漫画を読んでいた香澄は、チャイムの音が鳴って「あれ?」と顔を上げた。
「もう帰ってきたのかな? ん? でもチャイム……」
そう思いながらも、慌てて玄関に向かう後ろで、内線が鳴った。
「う!」
一瞬どっちに出ようと悩んだが、玄関まで来ている客を寒空の下待たせる訳にいかない。
「はい」
つっかけを足にドアを開けると、目の前に背の高い美女がいた。
「…………へ?」
ワンレングスのロングヘアにパーマを掛けた彼女は、アイラインをキュッとキャットアイ気味にして、チェリーレッドのリップをつけている。
黒いチェスターコートの下には赤いタートルネックニットが見え、首に緩く巻いているラグジュアリーブランドのマフラーも、こなれた感じだ。
「……どちら……さま……でしょう……?」
(佑さんの彼女?)
彼を疑うよりも、目の前のモデルのような美女があまりに美しくて、香澄は固まっていた。
「それはこっちの台詞なんだけど」
だがサクッと突っ込まれ、慌てて我に返る。
その時、女性の後ろから円山が慌ててこちらに走ってくるのが見えた。