【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2
彼の妹
「赤松さん! すみません。連絡が行き違いになって……」
「円山さん」
彼ならこの状況を説明してくれるのではと思い、香澄はホッとする。
「こちら、御劔澪さんです」
「みつ……」
聞き覚えのありすぎる苗字に固まった時、澪と紹介された女性が告げた。
「佑の妹だけど」
妹というには佑を呼び捨てにする様子に、香澄はピンッと彼女が佑とただの兄妹以上に親しい仲なのでは、と察する。
「で、あなたは?」
胡散臭そうに目を細める澪を前に、香澄はとてもやましい気持ちになってしまった。
「Chief Everyで社長秘書をさせて頂いております、赤松香澄と申します」
ビシッと頭を下げたが、澪は腕を組み不審げな態度を変えていない。
「それだけじゃないでしょう? 秘書が休日にそんな格好で社長に家にいないでしょ?」
「……は、はい……」
澪は香澄より年下に見えるのに、威圧感が凄い。
「……じ……実は……、恋人……として、同棲させて頂いております……っ」
「はぁ!?」
澪の反応に香澄はビクッと肩を跳ねさせ、助けを求めて彼女の後ろにいる円山を見る。
だが彼はどうしようもない、という顔をして首を横に振るだけだ。
「ねぇ、上がらせてくれないの? 寒いんだけど」
「どっ、どうぞ!」
香澄は円山にペコリと頭を下げ、澪を迎え入れる。
「コーヒーと紅茶、緑茶、何がいいですか?」
「コーヒー」
「承知致しました!」
まるで秘書のように返事をし、香澄は澪のコートを受け取りハンガーに掛け、キッチンに駆け込む。
「お茶菓子のお好みはあるでしょうか?」
「チョコある?」
澪は勝手知ったるという足取りでソファに座り、脚を組んでスマホを見る。
「はい!」
冷蔵庫の中にある物は何でも食べていいと言われている。
常備しているお菓子はすべて高級な物で、自分の一存で勝手に出してしまうのは憚られるが、佑の妹なら問題ないだろう。
電動ミルでコーヒー豆を砕き、沸かしたお湯でドリップしてゆく。
「いつから同棲してるの?」
「一月のはじめ辺りからです」
「もう一か月も!? 佑から何も聞いてない!」
(うぅ……。やっぱりご家族に言ってなかったんだ……。いや、でもまだ結婚とか決められていないし、報告してないのは当然か)
「す、すみません……」
気まずい沈黙が落ち、香澄はコーヒーを淹れ終わってからチョコレートを小皿に置き、「どうぞ」と澪に出す。
「ありがと」
態度はツンとしたままだが、きちんと礼を言うところは佑の妹、という感じがする。
「あなたがここにいる事について、二通りの事を考えてるの」
「は、はい」
ズイ、と突きつけられた二本の指を見て、香澄は顎を引き気味に頷く。
「一つ、どこかで佑と出会ったあなたが、佑をたぶらかして秘書と同棲する恋人の地位を手に入れた」
何か言いかけた香澄をグイと睨み、澪は「二つ」と手をもう一度突きつける。
「佑があなたをどこかで見つけて、強引に東京に連れて来た」
一辺倒なものの味方はされていないようで、一応安堵する。
どちらかと言えば後者が正解なのだが、自分の意志でこの家にいるし、これから佑ともっと知り合ってちゃんとした恋人になりたいと思っている。
だから自分が〝被害者〟である言い方はしたくなかった。
「どっち?」
どちらとも言えず、香澄は事の経緯を話す。
「私はもともと、札幌で飲食店のエリアマネージャーとして勤めていました。そこで社長と出会い、スカウトして頂きました」
「別に私に気を遣って〝社長〟って言わなくていいけど? プライベートでも社長呼ばわりしてる訳じゃないんでしょ?」
「……は、はい」
「それで? スカウトっていうのも、仕事だけじゃないでしょ?」
促され、香澄はぎこちなく頷く。
「……東京で秘書として働く事と、結婚を視野に同棲する事を提案されました」
「それで、一月から来た……と」
澪は手を伸ばしてチョコレートを一粒口に入れ、脚を組んだ。
また、沈黙が落ちる。
「あ、あの、すみま……」
香澄が誤りかけた時、「あのさぁ」と澪が先に口を開く。
「正直な事を言うと、今日、佑が実家に戻って来るのは知ってたワケ」
「はい」
「でも同時に、今までなら月に一回ぐらい顔を出していたのが、一月は元旦があったとは言え、何も連絡がなかったから『ちょっとおかしいな』って思ってた」
「……はい」
「佑はここ最近女の影がなかったし、まさかね……と思ったけど、万が一って思って抜き打ちで様子を見に来たの」
もはや相槌すら打てず、香澄は俯く。
「ぶっちゃけ、妹としては知らない間に紹介もされてない女と同棲してたなんて、ちょっと気分が悪い」
「はい」
(澪さんの言う通りだ。筋が通らない事をしてるのは、私のほう……)
「どうして挨拶しなかったか、聞いてもいい?」
それでもきちんと理由を聞こうとしてくれるのは、公平な考え方だと思った。
「私、去年の十一月下旬に、佑さんと初めて会ったばかりなんです。それから少しの期間で、勤めていた会社を辞めて佑さんの元に行く事を決めました。今は佑さんや新生活、新しい仕事に慣れるのが精一杯で、正直、二人の今後とか結婚についてじっくり考えられる状態ではありませんし、まだそこまで二人の仲も深まっていない気がします」
「まぁ、おかしな事は言ってないわね。あなたの言う通りだと思う」
「ありがとうございます。……それで、ご家族にご挨拶をするというのも、まだ変な話だと思っていて……」
香澄が話し終えると、澪は息をついてチョコレートをもう一つ口に放り込んだ。
もぐもぐと咀嚼してコーヒーと一緒に味わったあと、彼女は組んでいた脚を戻す。
「香澄さん? は、元彼とかどういう感じだったの?」
「えっと! いやぁ……その……」
まさか二十七歳にして、一人としか付き合った事がないと言うのは恥ずかしく、香澄はタラタラと冷や汗をかく。
「正直に言って? 香澄さん幾つ?」
「二十七になったばかりです」
「二十七なら、それなりに付き合っててもおかしくないし、とりあえず包み隠さず話して」
言われて、香澄は眉間に皺を寄せ苦しげな顔をしたあと、ボソボソと白状する。
「佑さんを除いて、一人…………です」
その瞬間、澪はフ……ッと苦笑した。
鼻で笑ってしまいそうなのを抑えたあと、冗談はいいからという表情で「で?」と促す。
「……ひとり、なんです。大学生時代に付き合って、それっきり、です」
香澄は赤面して俯き言った様子を見て、澪は怪訝な表情になったあと目を見開き、「マジ?」と尋ねてくる。
「まじ、です」
「はぁー…………」
澪は大きな溜め息をつき、気持ちを落ち着かせるために横を向いたあと、香澄を再度見て尋ね直す。
「だって香澄さん、結構可愛いでしょ。合コンとかしたら誰かしらいたでしょ」
「あんまりそういうの、しなかったんです。友達とばっかり過ごしてて、正直、男の人はあんまりいいやって思ってて」
「はぁ……? それで大学生以来の次の彼氏が佑? ぶっ飛びすぎじゃない?」
「す、すみません……。自分でも男性運がどうなっているか分からなくて」
思わず本音が出ると、澪も納得したようだ。
「……まぁ、大体うちの佑が香澄さんに何をしたのかは、分かってきたけど……」
澪はもう一度溜め息をつき、脚を組む。
「うちの家族……っていうか、ママも最初は私と同じ反応すると思う。私、どうやら性格がママに似てるみたいだから」
「はい」
そう言えば先ほど、佑に母の性格が強烈だと教えられたばかりだと思い出す。
「私は末っ子だけど社会人で、上の兄三人は社会的にそれなりの立場だから、基本的に両親は放任主義。でも、さすがに同棲とか結婚を視野に入れてる相手は、神経質になると思う。金目当て……とかね」
「はい。仰る通りです」
「香澄さんの状況は分かるけど、いつか結婚を視野に入れてるなら、同棲してますって挨拶ぐらいしておいた方がいいと思うよ」
「そうします」
シュンとして頷いたからか、澪は呆れたように溜め息をつく。
「なーんか、気が抜ける!」
「えっ?」
何か失望させてしまっただろうかと顔を上げると、澪はソファに身をもたれさせ声を上げる。
「円山さん」
彼ならこの状況を説明してくれるのではと思い、香澄はホッとする。
「こちら、御劔澪さんです」
「みつ……」
聞き覚えのありすぎる苗字に固まった時、澪と紹介された女性が告げた。
「佑の妹だけど」
妹というには佑を呼び捨てにする様子に、香澄はピンッと彼女が佑とただの兄妹以上に親しい仲なのでは、と察する。
「で、あなたは?」
胡散臭そうに目を細める澪を前に、香澄はとてもやましい気持ちになってしまった。
「Chief Everyで社長秘書をさせて頂いております、赤松香澄と申します」
ビシッと頭を下げたが、澪は腕を組み不審げな態度を変えていない。
「それだけじゃないでしょう? 秘書が休日にそんな格好で社長に家にいないでしょ?」
「……は、はい……」
澪は香澄より年下に見えるのに、威圧感が凄い。
「……じ……実は……、恋人……として、同棲させて頂いております……っ」
「はぁ!?」
澪の反応に香澄はビクッと肩を跳ねさせ、助けを求めて彼女の後ろにいる円山を見る。
だが彼はどうしようもない、という顔をして首を横に振るだけだ。
「ねぇ、上がらせてくれないの? 寒いんだけど」
「どっ、どうぞ!」
香澄は円山にペコリと頭を下げ、澪を迎え入れる。
「コーヒーと紅茶、緑茶、何がいいですか?」
「コーヒー」
「承知致しました!」
まるで秘書のように返事をし、香澄は澪のコートを受け取りハンガーに掛け、キッチンに駆け込む。
「お茶菓子のお好みはあるでしょうか?」
「チョコある?」
澪は勝手知ったるという足取りでソファに座り、脚を組んでスマホを見る。
「はい!」
冷蔵庫の中にある物は何でも食べていいと言われている。
常備しているお菓子はすべて高級な物で、自分の一存で勝手に出してしまうのは憚られるが、佑の妹なら問題ないだろう。
電動ミルでコーヒー豆を砕き、沸かしたお湯でドリップしてゆく。
「いつから同棲してるの?」
「一月のはじめ辺りからです」
「もう一か月も!? 佑から何も聞いてない!」
(うぅ……。やっぱりご家族に言ってなかったんだ……。いや、でもまだ結婚とか決められていないし、報告してないのは当然か)
「す、すみません……」
気まずい沈黙が落ち、香澄はコーヒーを淹れ終わってからチョコレートを小皿に置き、「どうぞ」と澪に出す。
「ありがと」
態度はツンとしたままだが、きちんと礼を言うところは佑の妹、という感じがする。
「あなたがここにいる事について、二通りの事を考えてるの」
「は、はい」
ズイ、と突きつけられた二本の指を見て、香澄は顎を引き気味に頷く。
「一つ、どこかで佑と出会ったあなたが、佑をたぶらかして秘書と同棲する恋人の地位を手に入れた」
何か言いかけた香澄をグイと睨み、澪は「二つ」と手をもう一度突きつける。
「佑があなたをどこかで見つけて、強引に東京に連れて来た」
一辺倒なものの味方はされていないようで、一応安堵する。
どちらかと言えば後者が正解なのだが、自分の意志でこの家にいるし、これから佑ともっと知り合ってちゃんとした恋人になりたいと思っている。
だから自分が〝被害者〟である言い方はしたくなかった。
「どっち?」
どちらとも言えず、香澄は事の経緯を話す。
「私はもともと、札幌で飲食店のエリアマネージャーとして勤めていました。そこで社長と出会い、スカウトして頂きました」
「別に私に気を遣って〝社長〟って言わなくていいけど? プライベートでも社長呼ばわりしてる訳じゃないんでしょ?」
「……は、はい」
「それで? スカウトっていうのも、仕事だけじゃないでしょ?」
促され、香澄はぎこちなく頷く。
「……東京で秘書として働く事と、結婚を視野に同棲する事を提案されました」
「それで、一月から来た……と」
澪は手を伸ばしてチョコレートを一粒口に入れ、脚を組んだ。
また、沈黙が落ちる。
「あ、あの、すみま……」
香澄が誤りかけた時、「あのさぁ」と澪が先に口を開く。
「正直な事を言うと、今日、佑が実家に戻って来るのは知ってたワケ」
「はい」
「でも同時に、今までなら月に一回ぐらい顔を出していたのが、一月は元旦があったとは言え、何も連絡がなかったから『ちょっとおかしいな』って思ってた」
「……はい」
「佑はここ最近女の影がなかったし、まさかね……と思ったけど、万が一って思って抜き打ちで様子を見に来たの」
もはや相槌すら打てず、香澄は俯く。
「ぶっちゃけ、妹としては知らない間に紹介もされてない女と同棲してたなんて、ちょっと気分が悪い」
「はい」
(澪さんの言う通りだ。筋が通らない事をしてるのは、私のほう……)
「どうして挨拶しなかったか、聞いてもいい?」
それでもきちんと理由を聞こうとしてくれるのは、公平な考え方だと思った。
「私、去年の十一月下旬に、佑さんと初めて会ったばかりなんです。それから少しの期間で、勤めていた会社を辞めて佑さんの元に行く事を決めました。今は佑さんや新生活、新しい仕事に慣れるのが精一杯で、正直、二人の今後とか結婚についてじっくり考えられる状態ではありませんし、まだそこまで二人の仲も深まっていない気がします」
「まぁ、おかしな事は言ってないわね。あなたの言う通りだと思う」
「ありがとうございます。……それで、ご家族にご挨拶をするというのも、まだ変な話だと思っていて……」
香澄が話し終えると、澪は息をついてチョコレートをもう一つ口に放り込んだ。
もぐもぐと咀嚼してコーヒーと一緒に味わったあと、彼女は組んでいた脚を戻す。
「香澄さん? は、元彼とかどういう感じだったの?」
「えっと! いやぁ……その……」
まさか二十七歳にして、一人としか付き合った事がないと言うのは恥ずかしく、香澄はタラタラと冷や汗をかく。
「正直に言って? 香澄さん幾つ?」
「二十七になったばかりです」
「二十七なら、それなりに付き合っててもおかしくないし、とりあえず包み隠さず話して」
言われて、香澄は眉間に皺を寄せ苦しげな顔をしたあと、ボソボソと白状する。
「佑さんを除いて、一人…………です」
その瞬間、澪はフ……ッと苦笑した。
鼻で笑ってしまいそうなのを抑えたあと、冗談はいいからという表情で「で?」と促す。
「……ひとり、なんです。大学生時代に付き合って、それっきり、です」
香澄は赤面して俯き言った様子を見て、澪は怪訝な表情になったあと目を見開き、「マジ?」と尋ねてくる。
「まじ、です」
「はぁー…………」
澪は大きな溜め息をつき、気持ちを落ち着かせるために横を向いたあと、香澄を再度見て尋ね直す。
「だって香澄さん、結構可愛いでしょ。合コンとかしたら誰かしらいたでしょ」
「あんまりそういうの、しなかったんです。友達とばっかり過ごしてて、正直、男の人はあんまりいいやって思ってて」
「はぁ……? それで大学生以来の次の彼氏が佑? ぶっ飛びすぎじゃない?」
「す、すみません……。自分でも男性運がどうなっているか分からなくて」
思わず本音が出ると、澪も納得したようだ。
「……まぁ、大体うちの佑が香澄さんに何をしたのかは、分かってきたけど……」
澪はもう一度溜め息をつき、脚を組む。
「うちの家族……っていうか、ママも最初は私と同じ反応すると思う。私、どうやら性格がママに似てるみたいだから」
「はい」
そう言えば先ほど、佑に母の性格が強烈だと教えられたばかりだと思い出す。
「私は末っ子だけど社会人で、上の兄三人は社会的にそれなりの立場だから、基本的に両親は放任主義。でも、さすがに同棲とか結婚を視野に入れてる相手は、神経質になると思う。金目当て……とかね」
「はい。仰る通りです」
「香澄さんの状況は分かるけど、いつか結婚を視野に入れてるなら、同棲してますって挨拶ぐらいしておいた方がいいと思うよ」
「そうします」
シュンとして頷いたからか、澪は呆れたように溜め息をつく。
「なーんか、気が抜ける!」
「えっ?」
何か失望させてしまっただろうかと顔を上げると、澪はソファに身をもたれさせ声を上げる。