【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2
少し嫉妬してほしいと思ってしまった
「じゃあ、そろそろ帰るね。ママには適当に言い訳しておくから、心配しないで」
「分かった」
澪が立ち上がったので、香澄は佑と共に一階まで澪を送る。
彼女がコートを着たのを見て、香澄は澪に声をかけた。
「あの、送りましょうか」
玄関にあるクローゼットからコートを取り出しかけたが、澪は手を振った。
「いや、いいよ。お嬢様じゃあるまいし、自宅と兄の家の往復ぐらい、一人で移動するから」
ケロリとして言ったあと、澪は「じゃあね」と玄関ドアの向こうに消えてしまった。
佑と香澄は同時に息をつく。
そして顔を見合わせて、どちらからともなく笑った。
「今は完全にそれぞれ別の生活を送っているけど、兄が一人と弟、さっきの妹の澪がいるんだ。まだ会わせるのはあとだと思っていたから、詳しく言うのが遅くなってすまない」
「いえ」
普段着に着替えた佑がリビングのソファに座ったので、香澄も彼の隣に腰掛ける。
二人ともそれぞれ別の場所でコーヒーとチョコレートを口にしたので、冷蔵庫にあったお茶がテーブルの上にある。
「兄と弟は、祖父の会社の日本支社で働いているんだ。兄は家庭を持っていて、弟は都内で一人暮らし。さっきの澪は『美人堂』で働いていて、実家暮らし」
「凄いですね……」
クラウザー社の社員というと、日常から遠く離れた世界の人に思える。
だが佑の祖父がクラウザー社の会長だと思うと、ごく自然な流れなのだろう。
加えて澪が働いている『美人堂』は、日本を代表する化粧品会社だ。
ドラッグストアで買える化粧品もあれば、デパコスも数種類ある。他にも洗剤やオーラルケア、ドリンク剤に生理用品、育児用品など、多岐に渡って商品がある大企業だ。
「ドイツ本国では、祖父母の長男が会社を継いでいるから、俺の父は特にクラウザー社に入る必要はないんだ。父は母と出会った時からすでに地方公務員だったし、義父が経営しているとしても、クラウザー社に入る姿勢は見せなかった。母はドイツを出てしまったし、多分そのあたりで色々あったんだと思う。特に絶縁したとか、そういうのではないんだけど」
「難しいんですね。でも、せっかく公務員試験をパスしたんだから、続けたいっていうお父さんの気持ちも分かります」
「うん、そうだよな。俺も思う」
佑は苦笑いする。
「祖父はそこを強制しなかったらしいから、特に両親と禍根がある訳じゃないんだ。ただ、祖父として、クラウザー社の会長として、せっかく日本に娘と孫がいるなら、いずれ誰かに関わってほしいと思っていたらしい。最初は母に社長にならないかと打診していたみたいだけど、母は母で、日本に馴染む事や四人の子育てとか色々忙しかったようだ。子育てが一段落したから、じゃあ社長になるかっていうのも違うし」
「そうですね」
「兄もその話を強制された訳じゃないけど、祖父の会社で需要があるのなら……っていう事で、自然と自分から日本支社の社長をやりたいって言い出した感じだ」
「それは、理想の形でしたね。弟さんもそういう感じで?」
香澄の質問に、佑は微妙な顔をした。
「弟は……うーん。あいつは要領のいいタイプだから、苦労してよその会社で働くよりは、祖父の会社でいいポストに収まりたいっていう感じかな。仕事はできるし、何をやらせてもそつのない奴なんだけど」
「ふふ、でもそれも分かります。予約できる特等席があるなら、そちらに座りたいですよね。自分で席を確保して、グレードアップしていくのは並大抵の事ではありませんから」
「一般的に次男次女って、ゴーイングマイウェイって言われてるからかな……。俺は周りの事は何も考えずに、自分がやりたいと思った道に突き進んでしまった。一時は祖父の期待に応えたほうが良かったのかなと悩んだ時もあったけど、今は周りの人はほとんど認めてくれているし、自分のやった事は間違えていないと思えている」
佑の言葉を聞き、香澄は笑う。
「あぁ、そういうのありますよね。長男長女はまじめで、次男次女は自由で、末っ子は要領のいいタイプ」
「香澄は?」
「あ、私はまじめ……か分かりませんが、長女です。芳也(よしや)っていう二つ下の弟がいるんです」
「二つ下なら二十五歳で、澪より一つ上か。……で、香澄が二十七歳で、翔が二十八歳……」
「言われると、近いですね」
自分と弟、佑の兄弟の年齢差に改めて気付き、どこか楽しくなる。
「意外と、実際会ったら気が合うかもしれませんね」
「そうかもな。……でも、香澄の〝相手〟は翔じゃなくて俺だからな?」
顔を近付けた佑が、至近距離で香澄の目を見つめてくる。
不意打ちでヘーゼルの目を見て、香澄は赤面すると不自然に横を向いた。
「そ、そんな……っ。佑さんのご兄弟と何かあるとか、ないですから」
「分かってるよ。ごめん、意地悪言いたかっただけだ」
佑は香澄の肩を抱き寄せ、チュッとキスをしてくる。
「今日、ごめんな。よかれと思って連絡していなかった事が、裏目に出てしまった」
「いえ、気にしないでください。佑さんの方針は、私の意志を尊重してくれての事ですし、ご挨拶していなかったのは、元はと言えば私のせいでもありますし」
佑は何も悪くないという事を主張し、その上でつけ加える。
「でも澪さんに、同棲だけであっても挨拶はしておかないとと言われて、凄く納得しました。個人の自由かもしれませんが、私も弟が急に女の子と同棲し始めたら気になっちゃいますし」
「……うん、そうだな。俺は自分と香澄の視点でしか考えられていなかったけど、澪がそう言ったのなら、一理あるのかもしれない」
佑も神妙な顔で頷き、息をつく。
「じゃあ、今度時間を設けて、家族に会ってもらえるか?」
「はい」
緊張してしまうが、不義理をしていたのはこちら側なので、きちんと筋を通さなくてはと思った。
「それと…………」
急に佑の声のトーンが落ち、珍しく言葉を迷わせている。
「どうかしましたか?」
佑は乱暴に息をつき、わしわしと頭を掻いてから、香澄に向き直り「ごめん!」と頭を下げた。
「えっ?」
「来週、人と会わないといけない」
「は、はい……」
そりゃあ、佑は多忙な人なので誰かと会う予定はあるだろう、と思った。
「女性だ」
「はい」
「…………母に香澄の存在を知らせていなかった事が裏目に出て、見合いを兼ねた食事をセッティングされてしまった」
「……あー……」
原因についてはこちらに非があると痛感しきった事なので、香澄は呆けた声を出す。
(佑さん、立派な家柄の人だし、お見合いぐらいあるよね……)
ここで強く否定するのも気が引けて、香澄は何も言えないでいる。
その反応を見て香澄が悲しんでいると思ったのか、佑は手を握って見つめてくる。
「本当にごめん。俺が長年フリーでいたから、母なりに気を利かせたつもりなんだと思う。勝手な事をしないでほしいと伝えたが、相手が名のある会社のお嬢さんなので、約束してしまったものをキャンセルするにも角が立つ」
「そうですね」
確かに母親としては、こんなにできた息子がずっとフリーなら心配の一つや二つもするだろう。
「だから、会うだけ会って、角が立たないようにお断りしてくる。母には好きな女性がいるから、今後こういう事はしないでほしいときちんと伝えた。その上で、今度場を設けて香澄を家族に紹介する。……いいか?」
「はい」
そうするしかないと思い、香澄は素直に頷いた。
だが佑は香澄の反応が薄いと思ったからか、まだ心配そうな顔をしている。
「……怒ってるか?」
「え? い、いえ。だってどうしようもないじゃないですか。約束してしまったのは……しょうがない……ですし」
怒っていないと否定するために、香澄は胸の前で両手を振った。
「…………そうか」
佑は何とも言えない表情で息をつき、肩を落とす。
どこかガッカリしたようにも見えるので、香澄は彼の様子を窺いながら次の言葉を待つ。
するとじっとりとした目を向けられた。
「……面倒な事を言っていいか?」
「はい」
「……少し嫉妬してほしいと思ってしまった」
「……それは、面倒ですね」
神妙な顔で同意してから、香澄は苦笑いした。
「本当はちょっと心配で不安になってますけど、佑さんは全部正直に言ってくれましたし、必要以上に不安がる事もないのかなと思っています」
「まぁ……、隠してたら洒落にならない結果になるしな」
佑はソファの背もたれに身を任せ、座面に脚を引き上げて胡座をかく。
「大丈夫ですよ。お見合いとか、そういうものがある世界の人だっていうのは分かっていましたし、お母さんの事も含め、これでも色々覚悟しているつもりです」
彼を見て元気づけるように笑いかけると、クシャクシャと頭を撫でられた。
「分かった」
澪が立ち上がったので、香澄は佑と共に一階まで澪を送る。
彼女がコートを着たのを見て、香澄は澪に声をかけた。
「あの、送りましょうか」
玄関にあるクローゼットからコートを取り出しかけたが、澪は手を振った。
「いや、いいよ。お嬢様じゃあるまいし、自宅と兄の家の往復ぐらい、一人で移動するから」
ケロリとして言ったあと、澪は「じゃあね」と玄関ドアの向こうに消えてしまった。
佑と香澄は同時に息をつく。
そして顔を見合わせて、どちらからともなく笑った。
「今は完全にそれぞれ別の生活を送っているけど、兄が一人と弟、さっきの妹の澪がいるんだ。まだ会わせるのはあとだと思っていたから、詳しく言うのが遅くなってすまない」
「いえ」
普段着に着替えた佑がリビングのソファに座ったので、香澄も彼の隣に腰掛ける。
二人ともそれぞれ別の場所でコーヒーとチョコレートを口にしたので、冷蔵庫にあったお茶がテーブルの上にある。
「兄と弟は、祖父の会社の日本支社で働いているんだ。兄は家庭を持っていて、弟は都内で一人暮らし。さっきの澪は『美人堂』で働いていて、実家暮らし」
「凄いですね……」
クラウザー社の社員というと、日常から遠く離れた世界の人に思える。
だが佑の祖父がクラウザー社の会長だと思うと、ごく自然な流れなのだろう。
加えて澪が働いている『美人堂』は、日本を代表する化粧品会社だ。
ドラッグストアで買える化粧品もあれば、デパコスも数種類ある。他にも洗剤やオーラルケア、ドリンク剤に生理用品、育児用品など、多岐に渡って商品がある大企業だ。
「ドイツ本国では、祖父母の長男が会社を継いでいるから、俺の父は特にクラウザー社に入る必要はないんだ。父は母と出会った時からすでに地方公務員だったし、義父が経営しているとしても、クラウザー社に入る姿勢は見せなかった。母はドイツを出てしまったし、多分そのあたりで色々あったんだと思う。特に絶縁したとか、そういうのではないんだけど」
「難しいんですね。でも、せっかく公務員試験をパスしたんだから、続けたいっていうお父さんの気持ちも分かります」
「うん、そうだよな。俺も思う」
佑は苦笑いする。
「祖父はそこを強制しなかったらしいから、特に両親と禍根がある訳じゃないんだ。ただ、祖父として、クラウザー社の会長として、せっかく日本に娘と孫がいるなら、いずれ誰かに関わってほしいと思っていたらしい。最初は母に社長にならないかと打診していたみたいだけど、母は母で、日本に馴染む事や四人の子育てとか色々忙しかったようだ。子育てが一段落したから、じゃあ社長になるかっていうのも違うし」
「そうですね」
「兄もその話を強制された訳じゃないけど、祖父の会社で需要があるのなら……っていう事で、自然と自分から日本支社の社長をやりたいって言い出した感じだ」
「それは、理想の形でしたね。弟さんもそういう感じで?」
香澄の質問に、佑は微妙な顔をした。
「弟は……うーん。あいつは要領のいいタイプだから、苦労してよその会社で働くよりは、祖父の会社でいいポストに収まりたいっていう感じかな。仕事はできるし、何をやらせてもそつのない奴なんだけど」
「ふふ、でもそれも分かります。予約できる特等席があるなら、そちらに座りたいですよね。自分で席を確保して、グレードアップしていくのは並大抵の事ではありませんから」
「一般的に次男次女って、ゴーイングマイウェイって言われてるからかな……。俺は周りの事は何も考えずに、自分がやりたいと思った道に突き進んでしまった。一時は祖父の期待に応えたほうが良かったのかなと悩んだ時もあったけど、今は周りの人はほとんど認めてくれているし、自分のやった事は間違えていないと思えている」
佑の言葉を聞き、香澄は笑う。
「あぁ、そういうのありますよね。長男長女はまじめで、次男次女は自由で、末っ子は要領のいいタイプ」
「香澄は?」
「あ、私はまじめ……か分かりませんが、長女です。芳也(よしや)っていう二つ下の弟がいるんです」
「二つ下なら二十五歳で、澪より一つ上か。……で、香澄が二十七歳で、翔が二十八歳……」
「言われると、近いですね」
自分と弟、佑の兄弟の年齢差に改めて気付き、どこか楽しくなる。
「意外と、実際会ったら気が合うかもしれませんね」
「そうかもな。……でも、香澄の〝相手〟は翔じゃなくて俺だからな?」
顔を近付けた佑が、至近距離で香澄の目を見つめてくる。
不意打ちでヘーゼルの目を見て、香澄は赤面すると不自然に横を向いた。
「そ、そんな……っ。佑さんのご兄弟と何かあるとか、ないですから」
「分かってるよ。ごめん、意地悪言いたかっただけだ」
佑は香澄の肩を抱き寄せ、チュッとキスをしてくる。
「今日、ごめんな。よかれと思って連絡していなかった事が、裏目に出てしまった」
「いえ、気にしないでください。佑さんの方針は、私の意志を尊重してくれての事ですし、ご挨拶していなかったのは、元はと言えば私のせいでもありますし」
佑は何も悪くないという事を主張し、その上でつけ加える。
「でも澪さんに、同棲だけであっても挨拶はしておかないとと言われて、凄く納得しました。個人の自由かもしれませんが、私も弟が急に女の子と同棲し始めたら気になっちゃいますし」
「……うん、そうだな。俺は自分と香澄の視点でしか考えられていなかったけど、澪がそう言ったのなら、一理あるのかもしれない」
佑も神妙な顔で頷き、息をつく。
「じゃあ、今度時間を設けて、家族に会ってもらえるか?」
「はい」
緊張してしまうが、不義理をしていたのはこちら側なので、きちんと筋を通さなくてはと思った。
「それと…………」
急に佑の声のトーンが落ち、珍しく言葉を迷わせている。
「どうかしましたか?」
佑は乱暴に息をつき、わしわしと頭を掻いてから、香澄に向き直り「ごめん!」と頭を下げた。
「えっ?」
「来週、人と会わないといけない」
「は、はい……」
そりゃあ、佑は多忙な人なので誰かと会う予定はあるだろう、と思った。
「女性だ」
「はい」
「…………母に香澄の存在を知らせていなかった事が裏目に出て、見合いを兼ねた食事をセッティングされてしまった」
「……あー……」
原因についてはこちらに非があると痛感しきった事なので、香澄は呆けた声を出す。
(佑さん、立派な家柄の人だし、お見合いぐらいあるよね……)
ここで強く否定するのも気が引けて、香澄は何も言えないでいる。
その反応を見て香澄が悲しんでいると思ったのか、佑は手を握って見つめてくる。
「本当にごめん。俺が長年フリーでいたから、母なりに気を利かせたつもりなんだと思う。勝手な事をしないでほしいと伝えたが、相手が名のある会社のお嬢さんなので、約束してしまったものをキャンセルするにも角が立つ」
「そうですね」
確かに母親としては、こんなにできた息子がずっとフリーなら心配の一つや二つもするだろう。
「だから、会うだけ会って、角が立たないようにお断りしてくる。母には好きな女性がいるから、今後こういう事はしないでほしいときちんと伝えた。その上で、今度場を設けて香澄を家族に紹介する。……いいか?」
「はい」
そうするしかないと思い、香澄は素直に頷いた。
だが佑は香澄の反応が薄いと思ったからか、まだ心配そうな顔をしている。
「……怒ってるか?」
「え? い、いえ。だってどうしようもないじゃないですか。約束してしまったのは……しょうがない……ですし」
怒っていないと否定するために、香澄は胸の前で両手を振った。
「…………そうか」
佑は何とも言えない表情で息をつき、肩を落とす。
どこかガッカリしたようにも見えるので、香澄は彼の様子を窺いながら次の言葉を待つ。
するとじっとりとした目を向けられた。
「……面倒な事を言っていいか?」
「はい」
「……少し嫉妬してほしいと思ってしまった」
「……それは、面倒ですね」
神妙な顔で同意してから、香澄は苦笑いした。
「本当はちょっと心配で不安になってますけど、佑さんは全部正直に言ってくれましたし、必要以上に不安がる事もないのかなと思っています」
「まぁ……、隠してたら洒落にならない結果になるしな」
佑はソファの背もたれに身を任せ、座面に脚を引き上げて胡座をかく。
「大丈夫ですよ。お見合いとか、そういうものがある世界の人だっていうのは分かっていましたし、お母さんの事も含め、これでも色々覚悟しているつもりです」
彼を見て元気づけるように笑いかけると、クシャクシャと頭を撫でられた。