【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2
心配ないよ
札幌にいた時も百貨店のバレンタイン催事はあって、そこそこ混雑しているのには慣れているつもりだった。
だが東京の、しかも銀座の百貨店の催事ときたら、その混みようは想定外で、久住も付き合わせて並ぶ事になってしまった。
「すみません」と彼に謝って、世間話をしながら順番がくるのを待つ。
「皆、やっぱりチョコレート買うのに真剣なんですね」
「赤松さんもそうでしょう?」
久住にクスッと笑われ、香澄は赤面する。
「その……。色々お世話になってますし」
ボソボソと言い訳をしたが、半分は恋人としてなので、見透かされている感が強い。
「沢山買っても構いませんからね。荷物は持ちますし、予算を超えても私が買いますから」
「そっ……、そんな! 久住さんに買い物させるなんてできません」
焦った香澄に、久住はにっこり笑ってみせる。
「ご心配なく。いざという時、護衛が御劔さんの代わりに金を負担する事にもなっています」
「えっ?」
護衛という職業をそれほど知らないが、金銭的にも依頼主を守る事になっているのか……と唖然とする。
「あとで御劔さんに請求する事になっていますから、十万くらいまでの買い物なら大丈夫ですよ。さすがに宝石を買うとかだと、御劔さんが一緒の時のほうがいいと思いますが」
「そっ、そんな……! 宝石なんて買いません。それに、人様に何万も出してもらうなんて、駄目です」
「赤松さんは金銭感覚が普通で、可愛らしいですねぇ……」
「えっ……えぇっ?」
妙な褒められ方をされ、香澄は混乱する。
「御劔さんと一緒に行動していると、目玉が飛び出る金額の買い物をポーンとしますし、私たち護衛にも、同行ついでに高級店でご馳走してくれるので、正直私も少し麻痺しかけています。私自身は人並みの稼ぎなんですが……」
「あ……、あぁ……」
何となく彼らの毎日が分かる気がして、香澄は微妙な声を出した。
「赤松さんが日々戸惑っているのも分かります。ですが同性の私から見ても御劔さんほどすべてを手にしながら、性格にも問題がなく理想的な男性はいないと思います。不安な事もあるでしょうけど、これからお二人がいい関係になっていくのを見守らせて頂きますね」
「……ありがとうございます」
護衛たちとは、移動の時ぐらいしか顔を合わせないが、そこまで見抜かれていて一瞬ドキッとする。
だが側にいる人が香澄と近い目線でいてくれると、心強い。
目の前に見える人だかりは札幌と比べものにならないが、それでもここにいる人は皆香澄と大差ない人たちだ。
護衛という普通に生きていれば関わりのない久住だって、話してみればごく普通の男性だ。
佑だってぶっとんだ所はあっても、意思疎通のできない宇宙人でもない。
ここは東京だが日本で、どこに言っても言葉が通じる。
(何となく、どうにかなりそうな気がしてきたなぁ……)
仕事上の関係とはいえ、護衛たちは香澄の味方になってくれる。
何か相談事が発生しても、きっと力になってくれるのではと思った。
東京に来て慣れない事ばかりだが、思いも寄らない身近なところから安心感を抱いたのだった。
その後、無事に催事場を回ってあれこれチョコレートを買い終えた。
「疲れましたね。買い物だけでも一苦労です」
「丁度ランチ時ですし、どこか入りますか?」
「そうですね……。以前ここに来た時、あまりゆっくり見られなかったので、ワンフロアずつグルッとしながら、良さそうなお店を探しましょうか」
「承知しました」
そのあと言葉通り各フロアを見て回り、途中でとても美味しそうなホットケーキを見つけてしまった。
店の入り口からは持ち帰り用のケーキディスプレイがあり、どれも美味しそうだ。
店先のスタンドに置いてあるメニューを捲り、食い入るように見てしまったのだが、値段が二千円代なので引いてしまった。
「次に行きましょうか」
何気なく微笑んだつもりだが、久住が香澄の前にスッと片腕を出し通せんぼする。
「ホットケーキ気になりましたか?」
「うっ……? そ、そう見えましたか?」
「気になるなら食べましょう。私も昼飯腹ですし」
「久住さんも甘いの食べられるんですか?」
「いえ、昼はしっかりカレーかハヤシでも食べようと思います。という事で入りましょう」
そんな流れで店内に入ったあと、佑から電話が掛かってきたのだった。
「香澄」
佑が店内に入ってくると、まず長身が目立ったのか人の視線を集め、そのあとに秀麗な顔立ちと隠せない御劔佑オーラに、周囲がザワついた。
だが佑はそれに構わず香澄のもとにまっすぐやって来る。
「お疲れ様です」
久住が立って迎えると、佑は一瞬彼を一瞥した。
久住は香澄の向かいから隣の席に移動し、佑が香澄の真向かいに座る。
何か意味ありげな視線だったが、佑は溜め息をついて「……まぁいい」と言い、ホールスタッフからメニューを受け取った。
「……カレーをお願いします」
メニューを開いて即決した佑は、すぐにオーダーする。
「買い物、終わったのか?」
「はい。沢山人がいて疲れましたが、久住さんが付き合ってくださったので苦痛ではありませんでした」
久住の評価が上がればと思って言ったのだが、なぜだか佑はチラッとまた久住を見た。
「……なら良かった。何を買ったんだ?」
「あー……。えっと……チョコを」
サプライズしたかったので言いづらいが、佑が雇っている久住を連れ回してまで買い物をしたので、報告をする義務がある。
「そうか」
だが佑は機嫌良さそうに微笑み、少しだけネクタイを緩めた。
「……佑さんはどうだったんですか?」
どうしてもお見合いの事が気になり、思わず尋ねてしまう。
「あぁ、きちんとお断りして終わった。心配ないよ」
「……そう、ですか」
テーブルの上を何とはなしに見たまま小さく微笑むが、相手の女性としては期待していたところを断られたのだから、悲劇だろう。
(喜んじゃいけない)
自分に言い聞かせ、そのあとお互い半日あった事などを話し、それぞれ出て来た物を食べてから店を出た。
「ご馳走様でした」
会計は佑が持ってくれ、結果的にただ飯ならぬただホットケーキを食べてしまった。
ホットケーキとパンケーキの違いすらいまだ分かっていないが、見た目からして綺麗な形と焼き色のそれを食べ、とても幸せな気持ちになった。
(でも甘い物を食べると、しょっぱい物も食べたくなるんだよなぁ……。家に帰ったらカップ麺食べようかな)
高級なホットケーキを食べたあとにそんな事を考えるので、まだまだ庶民精神が抜けていないと思う。
「小金井さんには駐車場で待ってもらっているから、移動しようか」
「はい」
そのあと、移動は普通にエスカレーターでワンフロアずつ下りていった。
「さっき二階で、入り口近くがロマンチックな感じのカフェがあったんです。久住さんが知り合いの女性から聞いた話では、中がフランス貴族が暮らしてるお屋敷みたいな内装みたいなんですって。入ってみたかったんですが、女性は好きそうでも久住さんがちょっと気の毒かなと思って、いつか一人で来ようと思ってます」
「あぁ、その店ならうちの社員も何か言ってたな。やっぱり女性はそういうの好きなんだな。個人差はあるだろうけど」
多少食べ物が高額でも、内装が凝っているなら頷ける。
その辺りは、飲食店で働いていたので理解があるつもりだ。
「久住は香澄に同行するのが仕事だから、そういう事で気にしなくていい。香澄は自分の行きたい場所に、どこでも行っていいんだよ。勿論、俺が同行していいなら、どこにでもデートしたいけど」
「ありがとうございます」
エスカレーターを下りながらそんな会話をしていた時、二階で振り袖を着た美女と出くわして一瞬見とれた。
(わ、着物着てる。綺麗だな)
そう思いながらも前に進もうとしたのだが、佑が足を止めたので慌てて二階に留まった。
「佑さん?」
声を掛けたが、佑は振り袖の女性と緊張した雰囲気で顔を見合わせ会釈をしている。
女性の後ろには両親とおぼしき男女がいて、それだけで香澄はすべてピンと察した。
(お見合い相手だ。近くにいるって言ってたから、きっと会った場所から二人ともここに来ちゃったんだ)
どうしよう……と思っていると、美女に冷ややかな目で見られた。
ドキッとして言葉を呑んでいる香澄に、美女が声を掛けてくる。
だが東京の、しかも銀座の百貨店の催事ときたら、その混みようは想定外で、久住も付き合わせて並ぶ事になってしまった。
「すみません」と彼に謝って、世間話をしながら順番がくるのを待つ。
「皆、やっぱりチョコレート買うのに真剣なんですね」
「赤松さんもそうでしょう?」
久住にクスッと笑われ、香澄は赤面する。
「その……。色々お世話になってますし」
ボソボソと言い訳をしたが、半分は恋人としてなので、見透かされている感が強い。
「沢山買っても構いませんからね。荷物は持ちますし、予算を超えても私が買いますから」
「そっ……、そんな! 久住さんに買い物させるなんてできません」
焦った香澄に、久住はにっこり笑ってみせる。
「ご心配なく。いざという時、護衛が御劔さんの代わりに金を負担する事にもなっています」
「えっ?」
護衛という職業をそれほど知らないが、金銭的にも依頼主を守る事になっているのか……と唖然とする。
「あとで御劔さんに請求する事になっていますから、十万くらいまでの買い物なら大丈夫ですよ。さすがに宝石を買うとかだと、御劔さんが一緒の時のほうがいいと思いますが」
「そっ、そんな……! 宝石なんて買いません。それに、人様に何万も出してもらうなんて、駄目です」
「赤松さんは金銭感覚が普通で、可愛らしいですねぇ……」
「えっ……えぇっ?」
妙な褒められ方をされ、香澄は混乱する。
「御劔さんと一緒に行動していると、目玉が飛び出る金額の買い物をポーンとしますし、私たち護衛にも、同行ついでに高級店でご馳走してくれるので、正直私も少し麻痺しかけています。私自身は人並みの稼ぎなんですが……」
「あ……、あぁ……」
何となく彼らの毎日が分かる気がして、香澄は微妙な声を出した。
「赤松さんが日々戸惑っているのも分かります。ですが同性の私から見ても御劔さんほどすべてを手にしながら、性格にも問題がなく理想的な男性はいないと思います。不安な事もあるでしょうけど、これからお二人がいい関係になっていくのを見守らせて頂きますね」
「……ありがとうございます」
護衛たちとは、移動の時ぐらいしか顔を合わせないが、そこまで見抜かれていて一瞬ドキッとする。
だが側にいる人が香澄と近い目線でいてくれると、心強い。
目の前に見える人だかりは札幌と比べものにならないが、それでもここにいる人は皆香澄と大差ない人たちだ。
護衛という普通に生きていれば関わりのない久住だって、話してみればごく普通の男性だ。
佑だってぶっとんだ所はあっても、意思疎通のできない宇宙人でもない。
ここは東京だが日本で、どこに言っても言葉が通じる。
(何となく、どうにかなりそうな気がしてきたなぁ……)
仕事上の関係とはいえ、護衛たちは香澄の味方になってくれる。
何か相談事が発生しても、きっと力になってくれるのではと思った。
東京に来て慣れない事ばかりだが、思いも寄らない身近なところから安心感を抱いたのだった。
その後、無事に催事場を回ってあれこれチョコレートを買い終えた。
「疲れましたね。買い物だけでも一苦労です」
「丁度ランチ時ですし、どこか入りますか?」
「そうですね……。以前ここに来た時、あまりゆっくり見られなかったので、ワンフロアずつグルッとしながら、良さそうなお店を探しましょうか」
「承知しました」
そのあと言葉通り各フロアを見て回り、途中でとても美味しそうなホットケーキを見つけてしまった。
店の入り口からは持ち帰り用のケーキディスプレイがあり、どれも美味しそうだ。
店先のスタンドに置いてあるメニューを捲り、食い入るように見てしまったのだが、値段が二千円代なので引いてしまった。
「次に行きましょうか」
何気なく微笑んだつもりだが、久住が香澄の前にスッと片腕を出し通せんぼする。
「ホットケーキ気になりましたか?」
「うっ……? そ、そう見えましたか?」
「気になるなら食べましょう。私も昼飯腹ですし」
「久住さんも甘いの食べられるんですか?」
「いえ、昼はしっかりカレーかハヤシでも食べようと思います。という事で入りましょう」
そんな流れで店内に入ったあと、佑から電話が掛かってきたのだった。
「香澄」
佑が店内に入ってくると、まず長身が目立ったのか人の視線を集め、そのあとに秀麗な顔立ちと隠せない御劔佑オーラに、周囲がザワついた。
だが佑はそれに構わず香澄のもとにまっすぐやって来る。
「お疲れ様です」
久住が立って迎えると、佑は一瞬彼を一瞥した。
久住は香澄の向かいから隣の席に移動し、佑が香澄の真向かいに座る。
何か意味ありげな視線だったが、佑は溜め息をついて「……まぁいい」と言い、ホールスタッフからメニューを受け取った。
「……カレーをお願いします」
メニューを開いて即決した佑は、すぐにオーダーする。
「買い物、終わったのか?」
「はい。沢山人がいて疲れましたが、久住さんが付き合ってくださったので苦痛ではありませんでした」
久住の評価が上がればと思って言ったのだが、なぜだか佑はチラッとまた久住を見た。
「……なら良かった。何を買ったんだ?」
「あー……。えっと……チョコを」
サプライズしたかったので言いづらいが、佑が雇っている久住を連れ回してまで買い物をしたので、報告をする義務がある。
「そうか」
だが佑は機嫌良さそうに微笑み、少しだけネクタイを緩めた。
「……佑さんはどうだったんですか?」
どうしてもお見合いの事が気になり、思わず尋ねてしまう。
「あぁ、きちんとお断りして終わった。心配ないよ」
「……そう、ですか」
テーブルの上を何とはなしに見たまま小さく微笑むが、相手の女性としては期待していたところを断られたのだから、悲劇だろう。
(喜んじゃいけない)
自分に言い聞かせ、そのあとお互い半日あった事などを話し、それぞれ出て来た物を食べてから店を出た。
「ご馳走様でした」
会計は佑が持ってくれ、結果的にただ飯ならぬただホットケーキを食べてしまった。
ホットケーキとパンケーキの違いすらいまだ分かっていないが、見た目からして綺麗な形と焼き色のそれを食べ、とても幸せな気持ちになった。
(でも甘い物を食べると、しょっぱい物も食べたくなるんだよなぁ……。家に帰ったらカップ麺食べようかな)
高級なホットケーキを食べたあとにそんな事を考えるので、まだまだ庶民精神が抜けていないと思う。
「小金井さんには駐車場で待ってもらっているから、移動しようか」
「はい」
そのあと、移動は普通にエスカレーターでワンフロアずつ下りていった。
「さっき二階で、入り口近くがロマンチックな感じのカフェがあったんです。久住さんが知り合いの女性から聞いた話では、中がフランス貴族が暮らしてるお屋敷みたいな内装みたいなんですって。入ってみたかったんですが、女性は好きそうでも久住さんがちょっと気の毒かなと思って、いつか一人で来ようと思ってます」
「あぁ、その店ならうちの社員も何か言ってたな。やっぱり女性はそういうの好きなんだな。個人差はあるだろうけど」
多少食べ物が高額でも、内装が凝っているなら頷ける。
その辺りは、飲食店で働いていたので理解があるつもりだ。
「久住は香澄に同行するのが仕事だから、そういう事で気にしなくていい。香澄は自分の行きたい場所に、どこでも行っていいんだよ。勿論、俺が同行していいなら、どこにでもデートしたいけど」
「ありがとうございます」
エスカレーターを下りながらそんな会話をしていた時、二階で振り袖を着た美女と出くわして一瞬見とれた。
(わ、着物着てる。綺麗だな)
そう思いながらも前に進もうとしたのだが、佑が足を止めたので慌てて二階に留まった。
「佑さん?」
声を掛けたが、佑は振り袖の女性と緊張した雰囲気で顔を見合わせ会釈をしている。
女性の後ろには両親とおぼしき男女がいて、それだけで香澄はすべてピンと察した。
(お見合い相手だ。近くにいるって言ってたから、きっと会った場所から二人ともここに来ちゃったんだ)
どうしよう……と思っていると、美女に冷ややかな目で見られた。
ドキッとして言葉を呑んでいる香澄に、美女が声を掛けてくる。