【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました 2
初出社
狼狽えた香澄の反応を見て、佑は彼女が何を考えたかすぐに察したようだ。
「大丈夫。なるべくそういう事は週末にする。平日はただ抱き枕にするだけだから。少しずつ、こういう事にも慣れていこう?」
「……わ、分かりました……」
頷いたあと寝る前の準備を済ませ、昨晩彼と一緒に寝たキングサイズのベッドに潜り込む。
この家の自分の部屋のベッドには、少しずつ慣れてきた。
けれどいまだ、誰かと一緒に寝るのは慣れていない。
寝具からはふんわりと佑の匂いがし、それがまた落ち着くいい香りなのだ。
(いつの間にか枕も二つ並んでるし……)
佑はそのうち枕専門店に行って、香澄が一番寝やすい枕にするといいと言ってくれているが、今の枕でも十分だ。
そもそも、枕専門店があるのも驚きなのだが……。
「おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
おやすみを言い合ったあと、佑は自然と寝返りを打ち香澄の体に腕を掛け、脚を絡めてきた。
「ウウ」
「何もしないよ」
香澄を抱き寄せてその首元に顔を埋めた佑は、スゥーッと匂いを吸い込み、吐いてゆく。
そのあとモソモソと身じろぎをして体勢を整えたあと、大人しくなった。
(……まず、近所の地形に慣れるとか、交通機関を使えるようになるとかよりも、佑さんと一緒に寝るのに慣れないと……!)
何もしていないし、佑はただ隣で寝ているだけなのに、どんどん体温が上がっていく。
(意識しないように、意識しないように……)
自分に言い聞かせながら、香澄はなるべく気持ちを落ち着かせるのだった。
**
二週間ほど、香澄は一日勉強したあと十五時半ぐらいから、近場を探索する日々を過ごした。
スマホのマップアプリを見ながらうろうろ歩き回ってみると、近所にレストランやパン屋、神社などを確認した。
コンビニの位置もしっかり把握し、いざという時のために備える。
少し歩くと公園やフレンチレストラン、美術館などが敷地内にある植物園もある。
これはあとでじっくり歩いてみるとして、首都高の高架下をくぐるとそこから目黒になるようだ。
まっすぐ歩くと目黒駅に当たり、そこから電車に乗ると、隣の駅は五反田、反対側は恵比寿になる。
反対側に歩くと地下鉄の白金高輪駅があり、そこからは三田線、南北線が伸び、さらに乗り換えでどこまでも行けそうだ。
札幌の地下鉄は東西線、南北線、東豊線の三本のみでスッキリしている。
それに対して東京の地下鉄は、ざっくりと都営線と東京メトロ線に分かれ、全部で十五の路線がある。
これはさすがにすぐ覚えるのは無理だと思い、印刷した路線図に、自宅近くに繋がる駅や、さまざまな乗り換えの利く駅、東京駅や新宿駅など、よく知らないが有名な駅などに蛍光マーカーで丸をつけておいた。
(これを見ながら歩いてたら、お上りさんって思われるかな……)
どうにも香澄はアナログな人間で、マップアプリを使いこなせていないので、手元に紙があった方が安心してしまう。
そもそも、最新式のスマホを買っても電話、メール、ネット、SNSと限られた便利アプリを使う程度で、元から備わっている機能や一般的なアプリの便利な使い方を知らない。
バラエティ番組で見た、スマホに強い芸人の著書を買おうか検討している最中だ。
佑が言っていた講師たちはすぐに都合をつけてくれたらしく、語学は基本的に月水金にイギリス人の英語講師が自宅まで来てくれる事になった。
マナーの方は毎週土曜日の午前中に、元客室乗務員だという品のいい女性から色々習う事となる。
そのように勉強をしながら環境に慣れ、少しずつ佑にも慣れていった一月二十日の月曜日、香澄は出社する事になった。
朝に松井が迎えに来た時には、薄めのメイクをして髪を纏め、パンツスーツを着た状態で佑と一緒に朝食をとっていた。
「松井さん、今日からどうぞ宜しくお願い致します」
「はい、宜しくお願いします」
松井はにこやかに挨拶をしたあと、いつもと変わりなく佑にスケジュールを告げていく。
聞いていて「あれ?」と思ったのは、仕事始め初日に会食をしたはずの朔、真澄と矢崎、もう一人本城という人物と夜の会食が入った事だ。
香澄がチラッと松井を見たのを向かいから確認し、味噌汁を飲んだ佑が微笑む。
「朔さんはCEPのデザイナー、真澄はChief Everyの前身である子会社でIT企業『M-tec』の社長、俺の親友。矢崎さんは『eホーム御劔』の社長、本城さんはChief Everyの副社長だ。グループの重役との会食になるけど、身近な人ばっかりだから気にしないで。皆いい人だから」
「ひ……っ」
パリコレにも出るハイブランドのデザイナーに、社長、副社長……と、物凄い肩書きに心臓が縮み上がる。
「秘書として香澄の顔を覚えておいてほしいし、私生活のパートナーにもなるから、香澄もぜひ皆に挨拶してほしい」
「は……はい……」
今から夕食の事を考え、倒れてしまいそうだ。
斎藤が作ってくれた朝食を美味しい美味しいと食べていたのに、スンッ……と食欲がなくなった気がした。
それでも出社時間になり、斎藤に「いってきます」と告げて緊張しながら佑と一緒に車に乗り込んだ。
ガレージには沢山の高級車が停めてあったが、基本的に出勤する時の車は黒い国産車だ。
それでもランクの高い車で、車内がゆったりしているように感じられる。
「社長さんって、長い車で移動するのかと思っていました」
「ん? いや、そういうのもあるけど、基本的に仕事の時は安心して乗れる方がいいから」
「と言いますと?」
「仕事中に下手に目立つのは避けたいんだ」
「あぁ……なるほど……」
「防犯の意味でも、周囲に溶け込む国産車っていうのは相性がいいんだ」
「そうなんですね」
てっきり社長と言えば高級外国車に乗っていると思っていたが、意外な事実がある。
話しているうちに、車は目黒駅の中央口側にある、Chief Every本社――通称TMタワーと呼ばれている高層ビルに着いた。
車は横道から地下駐車場に入る。
佑の車が停まる場所は決まっているらしく、出入り口の一番近くだ。
ビル内に入る前には警備員が立ち、警備員室とIDリーダーもある。
香澄はすでに首から提げている社員証に手を当て、確認した。
「赤松さん、本日は初日という事で、まず秘書課に挨拶をしたあと、秘書課の方にこのビルを案内してもらってください。そちらには話を通してあります」
「は、はい」
「Chief Everyの社員たるもの、自社ビルには精通していなければなりませんから。Chief Every本店や、CEPの店舗もありますので、現場の雰囲気を感じてください」
「はい!」
そのまま綺麗なビル内に入り、地下から直結しているエレベーターに乗り込む。
フロアボタンは一階がある他、ポンと飛んで三十三階が表示されている。
「オフィスが三十三階からなんですか?」
そもそも札幌でこのような高層ビルはとても少ない。
札幌駅に直結している、ホテルの入っているビルが三十八階建て。
TMタワーのようにオフィスや店舗のあるマンションや、マンションのみのビルで、四十階建ては数えるほど。
あとは大体、高くても三十階台だ。
札幌にも高層ビルはあると言えばあるが、東京に来てニョキニョキと大森林のように生えているのには気圧された。
そして香澄は札幌で高層ビルを目にしていても、実際中に入る事はほぼなかった。
だから今、緊張感を持って四十三階まであるフロアボタンを見ている。
「そうです。受付が三十三階にあり、社長室も移動しやすいようにそこにあります。上に各部署があり、四十一階は社員食堂や社員のためのジムやシャワー室、仮眠室などがあります」
「社食! やった!」
思わず拳を握った香澄の反応に、佑が笑いを噛み殺す。
「一番上は何があるんですか?」
香澄の質問に、今度は佑が答えた。
「一番上のペントハウスには、俺の別宅がある。その下のフロアも俺個人のスペース」
「ひぇ……。す、凄い……。四十三階に住んでたら、天空の覇者みたいな気持ちになりません?」
香澄のたとえに、佑が噴き出した。
「ぶふっ……、覇者……。いや、今はあまりこっちの家は使ってないんだ。いつでも寝泊まりできるように、掃除だけは頼んでいるけど」
「そうなんですね」
「社長の別宅には、社長室内にパッと見ただけでは分からない隠しエレベーターがありまして、そこから直接最上階に上がれるようになっています」
「ほぉ……」
話している間も、フロアボタンの上にある階数表示はどんどん変わっている。
「大丈夫。なるべくそういう事は週末にする。平日はただ抱き枕にするだけだから。少しずつ、こういう事にも慣れていこう?」
「……わ、分かりました……」
頷いたあと寝る前の準備を済ませ、昨晩彼と一緒に寝たキングサイズのベッドに潜り込む。
この家の自分の部屋のベッドには、少しずつ慣れてきた。
けれどいまだ、誰かと一緒に寝るのは慣れていない。
寝具からはふんわりと佑の匂いがし、それがまた落ち着くいい香りなのだ。
(いつの間にか枕も二つ並んでるし……)
佑はそのうち枕専門店に行って、香澄が一番寝やすい枕にするといいと言ってくれているが、今の枕でも十分だ。
そもそも、枕専門店があるのも驚きなのだが……。
「おやすみなさい」
「ん、おやすみ」
おやすみを言い合ったあと、佑は自然と寝返りを打ち香澄の体に腕を掛け、脚を絡めてきた。
「ウウ」
「何もしないよ」
香澄を抱き寄せてその首元に顔を埋めた佑は、スゥーッと匂いを吸い込み、吐いてゆく。
そのあとモソモソと身じろぎをして体勢を整えたあと、大人しくなった。
(……まず、近所の地形に慣れるとか、交通機関を使えるようになるとかよりも、佑さんと一緒に寝るのに慣れないと……!)
何もしていないし、佑はただ隣で寝ているだけなのに、どんどん体温が上がっていく。
(意識しないように、意識しないように……)
自分に言い聞かせながら、香澄はなるべく気持ちを落ち着かせるのだった。
**
二週間ほど、香澄は一日勉強したあと十五時半ぐらいから、近場を探索する日々を過ごした。
スマホのマップアプリを見ながらうろうろ歩き回ってみると、近所にレストランやパン屋、神社などを確認した。
コンビニの位置もしっかり把握し、いざという時のために備える。
少し歩くと公園やフレンチレストラン、美術館などが敷地内にある植物園もある。
これはあとでじっくり歩いてみるとして、首都高の高架下をくぐるとそこから目黒になるようだ。
まっすぐ歩くと目黒駅に当たり、そこから電車に乗ると、隣の駅は五反田、反対側は恵比寿になる。
反対側に歩くと地下鉄の白金高輪駅があり、そこからは三田線、南北線が伸び、さらに乗り換えでどこまでも行けそうだ。
札幌の地下鉄は東西線、南北線、東豊線の三本のみでスッキリしている。
それに対して東京の地下鉄は、ざっくりと都営線と東京メトロ線に分かれ、全部で十五の路線がある。
これはさすがにすぐ覚えるのは無理だと思い、印刷した路線図に、自宅近くに繋がる駅や、さまざまな乗り換えの利く駅、東京駅や新宿駅など、よく知らないが有名な駅などに蛍光マーカーで丸をつけておいた。
(これを見ながら歩いてたら、お上りさんって思われるかな……)
どうにも香澄はアナログな人間で、マップアプリを使いこなせていないので、手元に紙があった方が安心してしまう。
そもそも、最新式のスマホを買っても電話、メール、ネット、SNSと限られた便利アプリを使う程度で、元から備わっている機能や一般的なアプリの便利な使い方を知らない。
バラエティ番組で見た、スマホに強い芸人の著書を買おうか検討している最中だ。
佑が言っていた講師たちはすぐに都合をつけてくれたらしく、語学は基本的に月水金にイギリス人の英語講師が自宅まで来てくれる事になった。
マナーの方は毎週土曜日の午前中に、元客室乗務員だという品のいい女性から色々習う事となる。
そのように勉強をしながら環境に慣れ、少しずつ佑にも慣れていった一月二十日の月曜日、香澄は出社する事になった。
朝に松井が迎えに来た時には、薄めのメイクをして髪を纏め、パンツスーツを着た状態で佑と一緒に朝食をとっていた。
「松井さん、今日からどうぞ宜しくお願い致します」
「はい、宜しくお願いします」
松井はにこやかに挨拶をしたあと、いつもと変わりなく佑にスケジュールを告げていく。
聞いていて「あれ?」と思ったのは、仕事始め初日に会食をしたはずの朔、真澄と矢崎、もう一人本城という人物と夜の会食が入った事だ。
香澄がチラッと松井を見たのを向かいから確認し、味噌汁を飲んだ佑が微笑む。
「朔さんはCEPのデザイナー、真澄はChief Everyの前身である子会社でIT企業『M-tec』の社長、俺の親友。矢崎さんは『eホーム御劔』の社長、本城さんはChief Everyの副社長だ。グループの重役との会食になるけど、身近な人ばっかりだから気にしないで。皆いい人だから」
「ひ……っ」
パリコレにも出るハイブランドのデザイナーに、社長、副社長……と、物凄い肩書きに心臓が縮み上がる。
「秘書として香澄の顔を覚えておいてほしいし、私生活のパートナーにもなるから、香澄もぜひ皆に挨拶してほしい」
「は……はい……」
今から夕食の事を考え、倒れてしまいそうだ。
斎藤が作ってくれた朝食を美味しい美味しいと食べていたのに、スンッ……と食欲がなくなった気がした。
それでも出社時間になり、斎藤に「いってきます」と告げて緊張しながら佑と一緒に車に乗り込んだ。
ガレージには沢山の高級車が停めてあったが、基本的に出勤する時の車は黒い国産車だ。
それでもランクの高い車で、車内がゆったりしているように感じられる。
「社長さんって、長い車で移動するのかと思っていました」
「ん? いや、そういうのもあるけど、基本的に仕事の時は安心して乗れる方がいいから」
「と言いますと?」
「仕事中に下手に目立つのは避けたいんだ」
「あぁ……なるほど……」
「防犯の意味でも、周囲に溶け込む国産車っていうのは相性がいいんだ」
「そうなんですね」
てっきり社長と言えば高級外国車に乗っていると思っていたが、意外な事実がある。
話しているうちに、車は目黒駅の中央口側にある、Chief Every本社――通称TMタワーと呼ばれている高層ビルに着いた。
車は横道から地下駐車場に入る。
佑の車が停まる場所は決まっているらしく、出入り口の一番近くだ。
ビル内に入る前には警備員が立ち、警備員室とIDリーダーもある。
香澄はすでに首から提げている社員証に手を当て、確認した。
「赤松さん、本日は初日という事で、まず秘書課に挨拶をしたあと、秘書課の方にこのビルを案内してもらってください。そちらには話を通してあります」
「は、はい」
「Chief Everyの社員たるもの、自社ビルには精通していなければなりませんから。Chief Every本店や、CEPの店舗もありますので、現場の雰囲気を感じてください」
「はい!」
そのまま綺麗なビル内に入り、地下から直結しているエレベーターに乗り込む。
フロアボタンは一階がある他、ポンと飛んで三十三階が表示されている。
「オフィスが三十三階からなんですか?」
そもそも札幌でこのような高層ビルはとても少ない。
札幌駅に直結している、ホテルの入っているビルが三十八階建て。
TMタワーのようにオフィスや店舗のあるマンションや、マンションのみのビルで、四十階建ては数えるほど。
あとは大体、高くても三十階台だ。
札幌にも高層ビルはあると言えばあるが、東京に来てニョキニョキと大森林のように生えているのには気圧された。
そして香澄は札幌で高層ビルを目にしていても、実際中に入る事はほぼなかった。
だから今、緊張感を持って四十三階まであるフロアボタンを見ている。
「そうです。受付が三十三階にあり、社長室も移動しやすいようにそこにあります。上に各部署があり、四十一階は社員食堂や社員のためのジムやシャワー室、仮眠室などがあります」
「社食! やった!」
思わず拳を握った香澄の反応に、佑が笑いを噛み殺す。
「一番上は何があるんですか?」
香澄の質問に、今度は佑が答えた。
「一番上のペントハウスには、俺の別宅がある。その下のフロアも俺個人のスペース」
「ひぇ……。す、凄い……。四十三階に住んでたら、天空の覇者みたいな気持ちになりません?」
香澄のたとえに、佑が噴き出した。
「ぶふっ……、覇者……。いや、今はあまりこっちの家は使ってないんだ。いつでも寝泊まりできるように、掃除だけは頼んでいるけど」
「そうなんですね」
「社長の別宅には、社長室内にパッと見ただけでは分からない隠しエレベーターがありまして、そこから直接最上階に上がれるようになっています」
「ほぉ……」
話している間も、フロアボタンの上にある階数表示はどんどん変わっている。