キスマーク
あれは元彼に裏切りを重ねられて怒りで泣いた、下宿2日目の夜のことだ。真崎さんの胸を借りて泣いた挙句、いつの間にか寝落ちしてしまった私を彼が部屋まで運んでくれたのだ。今思い出しただけでも恥ずかしい。
そう言えば、彼は私のことをいつの間にか「美晴ちゃん」から「美晴」と呼び捨てにするようになったし、時々「おまえ」なんて呼ぶようになった。そうやって彼が私を呼ぶ度に、心臓がスキップするみたいに高鳴るのだ。
「さて、そろそろ寝るとするかな」
彼はグラスに残った焼酎を飲み干し、灰皿の上でタバコをもみ消した。
「あの」
「ん?」
「あの、おやすみのハグ、ください」
彼は「しょうがないなあ」と言って柔らかく笑った。私を優しく抱き締める彼の焼酎とタバコの香りが鼻腔をくすぐる。
「ハグだけでいいの?」
「じゃあ…おやすみのキス、ください」
彼は私の顎を持ち上げて私に上を向かせた。私を見つめる穏やかな目。そして唇を食むような優しいキス。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ふわりと互いの身体が離れる。
このあと、「キスだけでいいの?」とはこないんだよなあ…。
我々アラサー女とアラフォー男といういい大人同士が、付き合い始めて数カ月経つというのに、いまだに「そういう関係」に至っていない。彼から一度も色っぽい誘いがあった試しがないのだ。
だから本当はこういうときだって、「あとでそっちに行ってもいいですか?」なんて聞きたいのに聞けない自分がいる。
自分から誘って拒絶されたらと思うと怖くて聞けない。だから私たちはキス止まりの関係が続いている。
そう言えば、彼は私のことをいつの間にか「美晴ちゃん」から「美晴」と呼び捨てにするようになったし、時々「おまえ」なんて呼ぶようになった。そうやって彼が私を呼ぶ度に、心臓がスキップするみたいに高鳴るのだ。
「さて、そろそろ寝るとするかな」
彼はグラスに残った焼酎を飲み干し、灰皿の上でタバコをもみ消した。
「あの」
「ん?」
「あの、おやすみのハグ、ください」
彼は「しょうがないなあ」と言って柔らかく笑った。私を優しく抱き締める彼の焼酎とタバコの香りが鼻腔をくすぐる。
「ハグだけでいいの?」
「じゃあ…おやすみのキス、ください」
彼は私の顎を持ち上げて私に上を向かせた。私を見つめる穏やかな目。そして唇を食むような優しいキス。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
ふわりと互いの身体が離れる。
このあと、「キスだけでいいの?」とはこないんだよなあ…。
我々アラサー女とアラフォー男といういい大人同士が、付き合い始めて数カ月経つというのに、いまだに「そういう関係」に至っていない。彼から一度も色っぽい誘いがあった試しがないのだ。
だから本当はこういうときだって、「あとでそっちに行ってもいいですか?」なんて聞きたいのに聞けない自分がいる。
自分から誘って拒絶されたらと思うと怖くて聞けない。だから私たちはキス止まりの関係が続いている。