君の一番は僕がいい
 あの過去がなければ、今も太ったままだったのかもしれない。
 しかし、あれからなんど彼の病室に行っても回復することなく眠ったまま。
 何が起こったのかもわからない。
「クマ太郎は何か知らない?」
(……)
「答えてよ」
(知らない)
「だよねぇ……。そうだ、どう?この服。新しく買っててまだ着てなかったの!」
(……)
「えぇ!!なんで黙り込むのさ!かわいいから買ったのにクマ太郎に無視されたぁ」
(……太ったんじゃないか?)
「クマ太郎!!次それ言ったら怒るから!」
 気にしてるところをズケズケと……!!
 痩せないと似合わないのかな。
 もし、啓がいたらデブって言ったのかな。
(啓のこと考えてた?)
「え?すごい、なんでわかったの?」
(なんとなく)
「啓さ、病院もよくわかんないままらしいの。どうして、倒れてたのかも警察はわかってないんだって」
(そうなんだ)
「ねえ、何か知らない?」
 クマ太郎に聞いても、クラスの文句しか言ってないからわかるわけないだろうけど。
(殺したのは、君じゃないか)
「……え?ちょ、ちょっと、何を急に!」
 悪い冗談ならやめてほしい。
(冗談でも何でもない。君が伊藤や花沢、佐倉を殺した)
「やめてよ!私そんなことしてない!」
(いいや、したんだよ。君がいつも文句を言うから、邪魔なのかなと思って)
「邪魔ってだけで、殺したりしないよ!」
(吉沢啓はそれで美馬も佐久間も殺したぞ)
「え……?そんなの、信じない!ありえない!啓がそんなことするはずない!」
(したんだよ)
「嘘だよ!信じない!証拠がない!」
(あるよ)
 すると、私のスマホのスクリーンが光った。
 それは、どっかの防犯カメラ。
 啓が美馬を階段に落とす映像。
 切り替わると、次は佐久間を車道に突き倒す映像。
「う、嘘……。ありえないよ!だって、これは……幻覚だ!何かの幻覚に決まってる!」
(彼はしっかり確認しなかったのが運のつきだ。あの辺の防犯カメラは隠れっぽいんだ)
「さ、佐久間は……」
(ドラレコさ。警察は事故で処理しちゃたけど)
「なんでそんなこと知ってるの……?」
 クマ太郎はそれに答えることなくまた新しい映像を出した。
 それは、何もない場所で伊藤が飛ばされ畑で泡を吹いている映像。
 溝内が飛ばされ、啓が棒立ちになっている映像。
 啓が押し倒されて苦しそうにもがく様子。
 近くに花沢がいて涙を流していた。
 花沢目線で進むと次は佐倉が倒れていた。目の前にきた宮野が自分の首を掻っ切るグロい映像。
 また切り替わる。
 花沢が泡を吹いて、啓はまたもがいていた。
 驚いたのは、ポケットから刃物を取り出し上に突き上げたのだ。
 なぜだか私も同じように胸に痛みを感じた。
(この加害者は全部君だよ)
「嘘!」
(本当だよ。なんで嘘つく必要がある?)
「だって、こんなの……」
(自分がやった記憶がないから?)
 頷いた。
(僕が君の代わりに殺してあげたんだ。君の体を利用してね)
「……」
(散々僕の体を使ったんだ。利用したんだ。僕も君の体を利用しようと思ってね)
「……うそ。信じない。絶対、信じない」
(もう答えは出ているんだよ?君が死んでほしいと望んだ、殺してほしいと望んだ)
「……」
(言っていたじゃないか。君がずっと体型を維持できていれば望みはかなえてやるって。啓がそうやって言っていた。だけど、叶えてくれなかった。聞いてくれなかった。それが、いつの間にか不満になっていただろう。僕がそれを代わりにやってのけたんだよ!利用するだけした君の望みをかなえてあげているんだろう!優しさだ!啓がやらなかったことを僕がやってあげた!)
 首を横に振る。
(望んでないか?だったらなぜ大好きな僕に対していつもいつも愚痴や文句、悪口を言い続けるんだ?好きなら僕のいいところも言うべきだったじゃないか!それとも、女子である自分は褒めなくてもいいなんて思ったか?デブからブスに変わったのか?)
「やめて!!」
(君は、とっくに気づいているだろうが!その手で人を殺した感覚を!いつまでも体の疲れが取れない理由を!自分が人を愛せないことも!過去に散々嫌われてからかわれたトラウマが恋心を変化させてしまったんだってことを!彼の気持ちを今ならとっくにわかっていただろうが!苗字で呼ぶ理由を!名前で呼ばない訳を!彼の気持ちを蔑ろにしてみて見ぬふりをしたんだろうが!)
「……違う。そんなんじゃ」
(本当はとっくに人と関わることさえ怖かったくせに、啓も利用するのか?無自覚を貫き通すのか?)
「私は……」
(君はただのブスだよ。いつか報復は帰ってくる。利用される側じゃない、利用する側として今を生きているのだから)
「うるさい!!黙れ!そんなわけない!私は、啓のことを利用したいなんて思ってない!今も大切な友達なの!クマ太郎にそんなこと言われたくなかった!もう、クマ太郎のことなんて大っ嫌い!」
 家を飛び出した私は当てもなく走り続けた。
 私が彼女たちを殺したなんて思いたくない。
 忘れたい。
 そんなわけがない。
 殺せるわけがない。
 私にそんな度胸ない。
 信号が赤にもかかわらず渡ったが、ライトに気づいた刹那、鈍い痛みが体を刺激し車道の中を転がっていく。
 動けなくなった私は、クマ太郎の顔を思い出した。
 涙が出てきたころにはもう視界は黒く染まった。
< 15 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop