君の一番は僕がいい
 楓が俺の好きな人を殺した。
 許せない。
 あれが嘘でもほんとでもどっちでもいい。
 楓がそんな奴だとは思わなかった。
 刃物を見て思う。
 どうせ、クマが人を殺しても俺がやったことになるのならこの先俺が何人殺しても変わらない。
 だったら殺せるだけ殺してやる。
 殺して、殺して、殺しまくる。
 なんて、言いたいところだけどもう警察にはマークされている。
 退院したら出頭することを伝えたからだ。
 反省の色が見えたのか、監視がいないのはプライバシーを気にしたのか。
 どちらかはわからないが、楓は殺す。
 俺はもう失ったんだ。
 今から何をしてもこの先どうなろうとどうでもいい。
 朝が来た。
 今が、殺し時だ。
 この時間に看護師が動くことなどないだろうから。
 楓がいるとされる病室に着くとすぐそばにいた。
 もう殺してしまおう。
 どうせ、終わりなのだから。
 俺は終わった側の人間。
 終わらせた側の人間。
 クマの望むように動かした挙句このざまだ。
 だけど、美馬を殺すきっかけを作ったお前は別だ。
 あんだけ男子が好きな顔を見せておいて。
 上目遣いだったり動き、男子が好きな行動を絵に描いたように見せてくれた彼女。
 だけれど、その裏にはあんな腹黒いことを考えていたなんて俺はもう怒りを感じる。
 寝ているうちに殺そうと思ったのに、楓は起きてしまった。
「あれ?啓?」
「……」
「おはよ。病院一緒だったんだね」
 何を呑気なことを言ってやがる。
「私も事故に遭っちゃってさ……。それで、気が付いたら病院。最悪ー」
「そっか」
「大丈夫?少し変だよ?」
「そうでもない」
「そうかなー?病院だからほかの人もいて余計疲れが取れないとか?」
「別に」
 こいつはなんで好きな人を殺すように動かしておいて普通にしゃべれるんだ。
 俺はもう楓と話したいことなんてない。
 あの時、クマに言われていなかったら一生クマを呪ってた。
 だけど、こんなにも近くに犯人がいるのなら殺すこともできる。
 美馬の気持ちは俺が晴らす。
 こんなあくどい女子を許してはいけない。
「ん?啓ー?大丈夫?」
 お前みたいなやつに名前なんか呼ばれたくない。
 後ろに隠していた刃物を前に突き出す。
「きゃっ!?な、なに持ってきてんの?そんな危ないもの持ってこないでよ!!」
「美馬を殺すように言ったのはお前なんだろ?」
「え?なんのこと?」
「お前と伊藤達ってそんな仲良くなかったんだってな」
「……ね、ねえ。意味わかんないよ。何が言いたいの?」
「お前が美馬たちの話題が上がるのが嫌でクマのぬいぐるみにずっと文句を言ってた、違うか?」
「ちょっと……。わけわかんない」
「クマのぬいぐるみは、お前と話すんだろ。現実的じゃないがどうにもこの世にはそういう不可思議なことが一つも二つもある」
「クマのぬいぐるみってクマ太郎のこと?今、いないよ」
 それは悲しそうな目で。
 だけれど、そんなこと俺には一切関係ないことで。
「あのぬいぐるみは狂気だ。お前が文句を言わなければ美馬は死なずに済んだ!!」
 美馬の笑顔が鮮明に浮かぶ。
 思い出せば思い出すほど、もう彼と一緒に居ることはできないのだ。
 視界が歪んでいる。
 頬が濡れる。
 そうか、泣いているのか。
 今まで泣くことさえなかったのに、今更俺は彼の死を泣いているのだ。
 俺にはまだ感情があったのか……。
 なんだか笑えてくる話だ。
「私のせいなの……?私が殺したって言うの?美馬も?」
 美馬も?のもが気になるとこだがどうだっていい。
 いちいち考えていたくない。
「俺は美馬が好きだ!!なのに、お前のその日常の不満をぬいぐるみに垂れ続けるから!誰がお前なんかの不満を聞きたい?誰が、それを好んで聞くんだ?そのせいで誰が嫌な思いすると思ってる?」
 吐き出した言葉は止まらない。
「正直、お前のことは優しい奴だと思っていた。だけど、違う。お前はどうしようもなく自己中心的だ。女子ならば当然、許される行為だと思ったか?誰かが不満を聞いて喜ぶと思ったか?不満を言い合うのが女子だからとかクソみたいな言い訳をするのか?そのせいで、誰かが死んだらお前ら責任とれるのかよ!!現に、お前は人を殺した!殺すように仕向けた!不満の対象がいなければ悪口なんて聞かなくていいのにずっとお前はぬいぐるみに話し続けた!それが、美馬が死ぬに至った結果だ。あんたそれを助長させた!あんたが殺したのと同義だ!責任もって死んでくれ……」
 俺は、言いたいことを言うだけ言って刃物を両手で持ち彼女に一歩近づく。
 抵抗しようと手首をつかみに来る彼女の顔を右手で殴るとすぐに刃物を胸にぶっ刺した。
「お前みたいな女、死んじまえばいい」
 ナイフを引き抜くと血がドバっと出た。
 美馬を殺した最低な君を殺せて俺は嬉しいよ。
 美馬、やっと君を殺すに至った元凶を仕留めた。
 小さく悲鳴を上げた彼女はそのまま動かなくなった。
 それから、医療機械がピーピーとなり看護師がきて、警察を呼ばれた。
 三島の驚愕とした顔は今でも覚えてる。
 すぐに警察の監視下に置かれ外に出ることが禁止された。
 やっと満足した。
 あれだけ深く刺したんだ。
 殺せたに決まってる。
 どうせ失うものはないのだから。
 このまま死んでもかまわない。
 数時間後、彼女の死が報告された。
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