君の一番は僕がいい
伊藤加奈が死んだ。
失踪が死亡へと変わった。
第一発見者に当たる俺と美馬はすぐに警察の事情聴取を受けた。
俺も美馬も事実だけを言った。
そしてその事実が俺を少し苦しめた。
もっと早く見つけていれば。
もっと早く田んぼの異変に気付けば。
もっと早くあの場所に訪れていれば。
楓は、憔悴していた。
学校にも来なかったし、帰りがてら寄ってみたが反応はなかった。
当然だった。
普通に学校に行ける方がおかしいのだ。
佐久間が死んで伊藤加奈も死んだ。
俺も美馬も学校に行っていなくても何も問題ないと言うのに。
そして、伊藤加奈の死がもう二人も死んだのではないかという噂に対する根拠を強くさせるものだった。
もしも、あと二人が死んでいたら?
楓はどう思う?
俺は彼女に何ができる。
また前のように黙ることしかできないのか?
ひどいこととかじゃない、何か別の言葉がおれの口から言えるだろうか。
「なあ、やっぱおかしいよ。このクラス、どうなってんだよ」
美馬は恐怖を隠すことなく教室で言い放つ。
それが、喧嘩の火種になるワードだと言うことを考えず。
「やめろって」
「だって、おかしいだろ!なんでこのクラスだけで二人も死ぬんだよ!絶対、佐久間も伊藤も殺されたって!」
事件が立て続けにあったせいで今も事情聴取が行われている。
クラスではどんな立ち位置だったか、誰と仲が良かったのか。そんなところだ。
教室を使って事情聴取をするものだから俺たち28HR は移動を余儀なくされ、視聴覚室へと移動になった。
そして、今は楓が事情聴取されている。
番号順ではなくランダムに。
「きっと、佐倉も花澤も……!」
「いい加減にして!!美馬!ほんとにそういうのやめて!そんなひどいこと言わないで!」
茅野だった。
「だってそうだろ!クラスの中に憎んでるやつがいたから伊藤が殺されたんだ!佐久間も!事故死に見せかけたんだ!ぜったいそうだ!」
ゴシップみたく騒ぎ立ていわけじゃなく、美馬の場合、本気で言ってるからこそそれ以上にイラっとするのだ。
みんなも黙っていたが流石に美馬を見る目は冷たく鋭い。
「憎んでるとかそんなことであるわけないじゃない!」
「言い切れんのかよ!このクラスにだって佐久間の人気を気に食わないやつだっていたはずだろ!伊藤だってそうだ!」
「お前、この中に人殺しがいるって言いたいのか?」
静かにそう聞いたのは宮野仁だ。
二軍を自称する彼は、そんなこと言いつつも誰とでも気さくに話しかけていてフレンドリーな印象を持っていたが、こう言う状況になると話は変わってるくるのかもしれない。
「ああそうだ。宮野だってこの中に殺した奴がいたってなったら許せないだろ!」
「……それは、そうだけど」
「俺は確信してる。絶対にこの中にいるんだ。許したくないんだ!宮野も犯人だと思う人の名前くらい言ってくれ!」
「……流石に。おれは」
周りを見渡す彼は自分が今どんな状況に置かれたのか察したらしい。
このクラスはもう犯人探しをする気でいるのだ。
自分が次なる犠牲者を出すことにならないように指名されないように。
指名された人を糾弾し潰す。
「……亜久里、愛美あたりは怪しい気がしてる」
小さくいったその二名はわかりやすく言えば、三軍。
その名におれはなぜだか納得した。
二人は確かに被害者二人と接点があるから。
亜久里智哉は、佐久間と仲が良かったしそれ以上に同じ中学同じ部活。
佐久間の人気に嫉妬していてもおかしくない。その太った体型では佐久間には勝てないのだから。
愛美由依も同じく中学が一緒で下校時は一緒に帰っていたという。
愛美は高校入学から読書にハマったためあまり人と話さなくなったと以前聞いた。
しかし、それを知らないクラスメイトは陰キャの嫉妬みたいな捉え方をするのだろう。
どちらも嫉妬という点で納得できる答えだ。
ただまあ、どちらも正解ではないとおれは思う。
まず亜久里に関しては単なる事故なので証拠は一生上がらない。せいぜいデマが流れるくらい。
愛美は単純だ。そもそも一学期から本の交換というやりとりはしているらしいから今尚仲がいい。むしろ、死んだという報じられたのだから苦しい気持ちで胸がいっぱいだろう。
だけど……。
「やっぱ、あいつらか!おれは怪しいと思ってた!だよな!美馬も吉沢もそう思うだろ!」
窓側で話を聞いているだけで良かった俺にまで火種が飛んだ。
そうなる気はしてたけども……。
どうしてこうも名指しされたくない人たちは俺たちに同意を求めるのだろうか。
「まずその二人から話を聞こうか」
美馬は冷たくそういった。
自分も名指しされるのは好きじゃないのかい、とツッコミを入れたくなったが胃のなかに落とし込む。肺でもいいけど。
美馬が愛美の席へと向かう。
その時、楓が戻ってきた。
扉を開けたら修羅場になっていたと思わざるを得ないこの状況下に楓は少したじろいでいた。
「あ、あの、吉沢、呼ばれてる」
「ああ行くよ」
俺だったのかい!と心の中でツッコミを入れ席を立ちささっと向かう。
が、扉を閉めた時先に視聴覚室に入っていると思っていた楓は俺の制服の袖を摘んだ。
「一緒にいたい……」
「……わかった」
こんな時でも素直に喜びを感じてしまった俺は、これ以上テンションが上がらないように咳払いをする。
「怖いよな。でも、大丈夫。今日も俺がついてやるから」
「うん……」
「よし。行くぞ」
努めて明るくいうと彼女は袖は摘んだままついてきた。
相当、心を病んでいるだろうし、ストレスもあるだろう。
まだ、死因はわかっていないらしいのだから。
「加奈……、心停止だったみたい。突然死、なんだって」
おぉ?なんで知ってんの?
「さっき、三島さんが教えてくれた。あ、えっと、刑事さん」
死因って口外していいのか?
「事件性はないって考えているみたいなんだけど、二人の調査もしているみたいで」
「二人ってまさか……」
「美玖と天音の調査も続けてるからその聴取もって三島さんが」
少しヒヤッとした。
でも、まさかと思い直して気持ちを切り替える。
流石に、クラスメイトを疑うとか追い詰めるなんてことしないだろう。
「誰が、こんなことしたんだろう。私、絶対に許せない」
袖をつまむ指に力が入っている気がした。
それだけ怒りを感じていることに俺は気づかないふりをした。
三島さんは意外と綺麗な人だった。
刑事って縦社会だと聞くから女性ほど昇格しづらいのでは?と思ったが気のせいなのかもしれない。
高校生に大人の事情なんてわかるわけがない。
どうせ、社会出たら覚えろって言われるんだろうけどさ。知らねえよ、どれもこれも全部エゴだろうが。……今のなしで。
「吉沢君は、生前の二人をどう記憶してる?」
席に座るとすぐにそんなこと聞かれた。
「……」
「答えにくいのはわかるけど、犯人逮捕のために協力してくれないかな」
「伊藤は、日野と仲が良かったです。いつも一緒だったイメージがあります」
「そう。じゃあ、佐久間君は?」
「佐久間は、俺らと仲が良かったです。特に思い詰めてる様子もなかったし、俺たちは部活は違えど一緒にいることが多かったです。……でも、佐久間って事故死なんじゃ?あいつがそんなことするとは思えません。佐久間は、殺されたんですか?」
「……」
「答えてくださいよ!俺だってあんまり警察だからってこんな話したくない!せめて、なにか教えてください!」
「……それは、できない」
「なんで!」
「ドライブレコーダーには飛び出す様子が映ってなかった。どういう意味か分かる?」
「おい、三島。守秘義務がある」
隣にいたおじさん刑事が三島さんを止めに入った。
「守秘義務って何ですか?俺たちには情報を開示させて友達の最後を知ることも許されないんですか?」
「いいかい、吉沢君。僕らだって鬼になりたいわけじゃない。ただね、そうならざるを得ないときだってあるんだ」
「……」
「ただまあ、みんなには伝えているからひとつだけ。佐久間君は殺されたと思ってる。ドライブレコーダーを見る限り、背中が道路へと向かっていた。誰かと何かしていたのかもしれない。口論の末、車道へと押されてしまったのかもしれない。それも視野に入れている。だれか、口論になっていた人、喧嘩していた人は当時いたのか教えてもらえるかな」
「……」
「いるならいる。いないなら、いないでいいんだよ」
「……わかりません。口論とか喧嘩とか、あいつはそういうのいうタイプじゃなかった」
「そうか?美馬君は喧嘩はあったかもしれないと言っていたよ」
「それは……」
「何か思い当たる節は?」
「……俺は……疑われているんですか?」
「まさか。そんなつもりじゃない。あるならあるでいいと言ったじゃない」
「俺はそれに対して、分からないと答えたから……」
「君と佐久間君はあまり相談相手にするような間柄じゃなかったんだね」
「そうです。仲がいいだけですよ。高校生なんて人に悩みを打ち明ける人なんていない」
「そうかな。君がそう思っているだけじゃないか?」
「複雑なんですよ。高校生の人間関係なんて。少しでもテンション上げれば調子乗ってるって弾圧されるんですから」
「伊藤さんにもそういうのはあるのかな?」
「どうでしょうね。俺と伊藤はそこまで良い仲ではなかったですよ」
「そうか。どうもありがとう。また、何か気づいたら教えてくれ」
礼をして出て行くと、楓の隣に愛美が立っていた。
「どうかしたか?」
「私、思い出したことがあって」
「思い出したこと?」
思わず反芻してしまった。
彼女はもう事情聴取を終えている。
「だから、今から」
「ちょっと、待って」
急ぐ彼女の手首を俺はつかんだ。
「俺にも教えてくれないか?俺も力になりたい」
楓の前だ。俺はカッコよくありたい。
「愛美さ、亡くなる前からずっとクマの仮面を被った人に追いかけられたって話をしてたの」
「クマの仮面?それはどういう?」
「わかんない。でも、一度きりじゃないんだって。夢にも現れるし、その夢の中で殺されそうになったりとか、実際に夜十時とかに外出てた時に追いかけられたとか」
「どういうこと?デジャブみたいな?」
「明晰夢だったんだって怯えてて。また次そんなことあったらどうしようって不安がってた」
意味が分からない。
クマの仮面ってそんなのどこで売ってんだよ。いや、それ以前にクマの仮面を被った人間に襲われるデジャブって何?
心停止で何かが起こった。パニックになってそのまま絶命。なくはない話だけど、ありえるか?
そもそも、楓には事件性はないとか言ってたくせに、俺には事件として調べてるって話だ。
確実に疑われちゃったなあ。
結構厄介なことになりそう……。
愛美は警察に伝えに言った。
そして、そのことは事件の手掛かりになるかもしれないと三島さんは言ったそうだ。
失踪が死亡へと変わった。
第一発見者に当たる俺と美馬はすぐに警察の事情聴取を受けた。
俺も美馬も事実だけを言った。
そしてその事実が俺を少し苦しめた。
もっと早く見つけていれば。
もっと早く田んぼの異変に気付けば。
もっと早くあの場所に訪れていれば。
楓は、憔悴していた。
学校にも来なかったし、帰りがてら寄ってみたが反応はなかった。
当然だった。
普通に学校に行ける方がおかしいのだ。
佐久間が死んで伊藤加奈も死んだ。
俺も美馬も学校に行っていなくても何も問題ないと言うのに。
そして、伊藤加奈の死がもう二人も死んだのではないかという噂に対する根拠を強くさせるものだった。
もしも、あと二人が死んでいたら?
楓はどう思う?
俺は彼女に何ができる。
また前のように黙ることしかできないのか?
ひどいこととかじゃない、何か別の言葉がおれの口から言えるだろうか。
「なあ、やっぱおかしいよ。このクラス、どうなってんだよ」
美馬は恐怖を隠すことなく教室で言い放つ。
それが、喧嘩の火種になるワードだと言うことを考えず。
「やめろって」
「だって、おかしいだろ!なんでこのクラスだけで二人も死ぬんだよ!絶対、佐久間も伊藤も殺されたって!」
事件が立て続けにあったせいで今も事情聴取が行われている。
クラスではどんな立ち位置だったか、誰と仲が良かったのか。そんなところだ。
教室を使って事情聴取をするものだから俺たち28HR は移動を余儀なくされ、視聴覚室へと移動になった。
そして、今は楓が事情聴取されている。
番号順ではなくランダムに。
「きっと、佐倉も花澤も……!」
「いい加減にして!!美馬!ほんとにそういうのやめて!そんなひどいこと言わないで!」
茅野だった。
「だってそうだろ!クラスの中に憎んでるやつがいたから伊藤が殺されたんだ!佐久間も!事故死に見せかけたんだ!ぜったいそうだ!」
ゴシップみたく騒ぎ立ていわけじゃなく、美馬の場合、本気で言ってるからこそそれ以上にイラっとするのだ。
みんなも黙っていたが流石に美馬を見る目は冷たく鋭い。
「憎んでるとかそんなことであるわけないじゃない!」
「言い切れんのかよ!このクラスにだって佐久間の人気を気に食わないやつだっていたはずだろ!伊藤だってそうだ!」
「お前、この中に人殺しがいるって言いたいのか?」
静かにそう聞いたのは宮野仁だ。
二軍を自称する彼は、そんなこと言いつつも誰とでも気さくに話しかけていてフレンドリーな印象を持っていたが、こう言う状況になると話は変わってるくるのかもしれない。
「ああそうだ。宮野だってこの中に殺した奴がいたってなったら許せないだろ!」
「……それは、そうだけど」
「俺は確信してる。絶対にこの中にいるんだ。許したくないんだ!宮野も犯人だと思う人の名前くらい言ってくれ!」
「……流石に。おれは」
周りを見渡す彼は自分が今どんな状況に置かれたのか察したらしい。
このクラスはもう犯人探しをする気でいるのだ。
自分が次なる犠牲者を出すことにならないように指名されないように。
指名された人を糾弾し潰す。
「……亜久里、愛美あたりは怪しい気がしてる」
小さくいったその二名はわかりやすく言えば、三軍。
その名におれはなぜだか納得した。
二人は確かに被害者二人と接点があるから。
亜久里智哉は、佐久間と仲が良かったしそれ以上に同じ中学同じ部活。
佐久間の人気に嫉妬していてもおかしくない。その太った体型では佐久間には勝てないのだから。
愛美由依も同じく中学が一緒で下校時は一緒に帰っていたという。
愛美は高校入学から読書にハマったためあまり人と話さなくなったと以前聞いた。
しかし、それを知らないクラスメイトは陰キャの嫉妬みたいな捉え方をするのだろう。
どちらも嫉妬という点で納得できる答えだ。
ただまあ、どちらも正解ではないとおれは思う。
まず亜久里に関しては単なる事故なので証拠は一生上がらない。せいぜいデマが流れるくらい。
愛美は単純だ。そもそも一学期から本の交換というやりとりはしているらしいから今尚仲がいい。むしろ、死んだという報じられたのだから苦しい気持ちで胸がいっぱいだろう。
だけど……。
「やっぱ、あいつらか!おれは怪しいと思ってた!だよな!美馬も吉沢もそう思うだろ!」
窓側で話を聞いているだけで良かった俺にまで火種が飛んだ。
そうなる気はしてたけども……。
どうしてこうも名指しされたくない人たちは俺たちに同意を求めるのだろうか。
「まずその二人から話を聞こうか」
美馬は冷たくそういった。
自分も名指しされるのは好きじゃないのかい、とツッコミを入れたくなったが胃のなかに落とし込む。肺でもいいけど。
美馬が愛美の席へと向かう。
その時、楓が戻ってきた。
扉を開けたら修羅場になっていたと思わざるを得ないこの状況下に楓は少したじろいでいた。
「あ、あの、吉沢、呼ばれてる」
「ああ行くよ」
俺だったのかい!と心の中でツッコミを入れ席を立ちささっと向かう。
が、扉を閉めた時先に視聴覚室に入っていると思っていた楓は俺の制服の袖を摘んだ。
「一緒にいたい……」
「……わかった」
こんな時でも素直に喜びを感じてしまった俺は、これ以上テンションが上がらないように咳払いをする。
「怖いよな。でも、大丈夫。今日も俺がついてやるから」
「うん……」
「よし。行くぞ」
努めて明るくいうと彼女は袖は摘んだままついてきた。
相当、心を病んでいるだろうし、ストレスもあるだろう。
まだ、死因はわかっていないらしいのだから。
「加奈……、心停止だったみたい。突然死、なんだって」
おぉ?なんで知ってんの?
「さっき、三島さんが教えてくれた。あ、えっと、刑事さん」
死因って口外していいのか?
「事件性はないって考えているみたいなんだけど、二人の調査もしているみたいで」
「二人ってまさか……」
「美玖と天音の調査も続けてるからその聴取もって三島さんが」
少しヒヤッとした。
でも、まさかと思い直して気持ちを切り替える。
流石に、クラスメイトを疑うとか追い詰めるなんてことしないだろう。
「誰が、こんなことしたんだろう。私、絶対に許せない」
袖をつまむ指に力が入っている気がした。
それだけ怒りを感じていることに俺は気づかないふりをした。
三島さんは意外と綺麗な人だった。
刑事って縦社会だと聞くから女性ほど昇格しづらいのでは?と思ったが気のせいなのかもしれない。
高校生に大人の事情なんてわかるわけがない。
どうせ、社会出たら覚えろって言われるんだろうけどさ。知らねえよ、どれもこれも全部エゴだろうが。……今のなしで。
「吉沢君は、生前の二人をどう記憶してる?」
席に座るとすぐにそんなこと聞かれた。
「……」
「答えにくいのはわかるけど、犯人逮捕のために協力してくれないかな」
「伊藤は、日野と仲が良かったです。いつも一緒だったイメージがあります」
「そう。じゃあ、佐久間君は?」
「佐久間は、俺らと仲が良かったです。特に思い詰めてる様子もなかったし、俺たちは部活は違えど一緒にいることが多かったです。……でも、佐久間って事故死なんじゃ?あいつがそんなことするとは思えません。佐久間は、殺されたんですか?」
「……」
「答えてくださいよ!俺だってあんまり警察だからってこんな話したくない!せめて、なにか教えてください!」
「……それは、できない」
「なんで!」
「ドライブレコーダーには飛び出す様子が映ってなかった。どういう意味か分かる?」
「おい、三島。守秘義務がある」
隣にいたおじさん刑事が三島さんを止めに入った。
「守秘義務って何ですか?俺たちには情報を開示させて友達の最後を知ることも許されないんですか?」
「いいかい、吉沢君。僕らだって鬼になりたいわけじゃない。ただね、そうならざるを得ないときだってあるんだ」
「……」
「ただまあ、みんなには伝えているからひとつだけ。佐久間君は殺されたと思ってる。ドライブレコーダーを見る限り、背中が道路へと向かっていた。誰かと何かしていたのかもしれない。口論の末、車道へと押されてしまったのかもしれない。それも視野に入れている。だれか、口論になっていた人、喧嘩していた人は当時いたのか教えてもらえるかな」
「……」
「いるならいる。いないなら、いないでいいんだよ」
「……わかりません。口論とか喧嘩とか、あいつはそういうのいうタイプじゃなかった」
「そうか?美馬君は喧嘩はあったかもしれないと言っていたよ」
「それは……」
「何か思い当たる節は?」
「……俺は……疑われているんですか?」
「まさか。そんなつもりじゃない。あるならあるでいいと言ったじゃない」
「俺はそれに対して、分からないと答えたから……」
「君と佐久間君はあまり相談相手にするような間柄じゃなかったんだね」
「そうです。仲がいいだけですよ。高校生なんて人に悩みを打ち明ける人なんていない」
「そうかな。君がそう思っているだけじゃないか?」
「複雑なんですよ。高校生の人間関係なんて。少しでもテンション上げれば調子乗ってるって弾圧されるんですから」
「伊藤さんにもそういうのはあるのかな?」
「どうでしょうね。俺と伊藤はそこまで良い仲ではなかったですよ」
「そうか。どうもありがとう。また、何か気づいたら教えてくれ」
礼をして出て行くと、楓の隣に愛美が立っていた。
「どうかしたか?」
「私、思い出したことがあって」
「思い出したこと?」
思わず反芻してしまった。
彼女はもう事情聴取を終えている。
「だから、今から」
「ちょっと、待って」
急ぐ彼女の手首を俺はつかんだ。
「俺にも教えてくれないか?俺も力になりたい」
楓の前だ。俺はカッコよくありたい。
「愛美さ、亡くなる前からずっとクマの仮面を被った人に追いかけられたって話をしてたの」
「クマの仮面?それはどういう?」
「わかんない。でも、一度きりじゃないんだって。夢にも現れるし、その夢の中で殺されそうになったりとか、実際に夜十時とかに外出てた時に追いかけられたとか」
「どういうこと?デジャブみたいな?」
「明晰夢だったんだって怯えてて。また次そんなことあったらどうしようって不安がってた」
意味が分からない。
クマの仮面ってそんなのどこで売ってんだよ。いや、それ以前にクマの仮面を被った人間に襲われるデジャブって何?
心停止で何かが起こった。パニックになってそのまま絶命。なくはない話だけど、ありえるか?
そもそも、楓には事件性はないとか言ってたくせに、俺には事件として調べてるって話だ。
確実に疑われちゃったなあ。
結構厄介なことになりそう……。
愛美は警察に伝えに言った。
そして、そのことは事件の手掛かりになるかもしれないと三島さんは言ったそうだ。