君の一番は僕がいい
 何もしなかった俺をほめてほしい今日この頃。
 危機感のない彼女は俺の男だぞ?という発言にただ普通にうん、と頷くだけだったことが言葉にならない傷を入れた。
 俺は、案の定抱き枕にされた。
 かわいい寝息を立てる彼女に対して、俺の理性は最高値をたたき出した。
 なぜなら、ないと思われていたその体が腕に当たり、無防備な脚は俺の両脚に絡みつき、腕は肩辺りまで伸ばしていた。
「何もしないならいいじゃん、別に」
 と、にこやかな顔で純真無垢に寝る前に一度言われた俺は理性をすっ飛ばすところだった。
 やはり危機感のない彼女はすぐに眠ってしまい、なかなか寝付けない俺の体に顔をすりすりとさせていたり、ちょくちょく体を動かしある部分がいちいち触れてしまった。
 それでも、理性は保たせ紳士な男を見事演じて見せた。
 ……俳優目指せるのでは?
「おはよー!あれ、もしかしてとっくに起きてた?」
 起きてたんじゃない。寝れなかったんだ。
「ああ、まあ」
「声、大丈夫?」
「大丈夫。気にしないで」
「エッチなことしてないよね?」
 俺を跨ぐ彼女がいうセリフではないよな?
「してない」
「そう。ならよかった」
「もとからしないって思ってたんだろ?」
「そうだけど、やっぱ、男なのかなって気にしただけ」
「だとしても、日野が嫌がることしないから」
「お!それは、紳士だね!」
 そんなことより、この態勢はよくない。離れてくれたまえ。
 あと、前屈みになってるせいで肩とか見えてるんですよ。下着のそういう部分も見えそうなんすよ。
 離れろって!!!
「朝食食べた?」
「まだ」
 離れません?
「食べ行こうよ」
「そうだね」
 離れてくれん?
「あ、待って。髪の毛ぱさぱさだ……」
「あの……」
 離れてくれません?
「先に、櫛といでからでいい?」
「いいよ」
「ほんと?よかったー!」
 ちょっと、待て。その勢いで抱き着くのは違うじゃんか!
 そして、バッと起き上がる彼女。
「といで来るね!」
 スタスタと歩いていく彼女。
 何とか安心できた俺はそのままリビングへと向かった。

「ねえ、倉庫って今どうなってる?」
 朝食をとっているときだった。
「え?」
「ほら、前はよく倉庫で遊んだじゃん。ほら、少し広かったし」
「ああ。まあ、どうって言われても」
「行ってみたい!行こうよ!」
 どうしてこうも、危ないことをしようとするのか。
「まあ、いいけど」
「やったー!」
「もう今はなんもないよ?」
「それでもいいの!」
 それから、彼女は制服のスカートをはいて服は俺のやつを借りたまま家を出た。
 倉庫付近。
 どうしたらいいだろうか。
 倉庫には花沢がいる。
 あいつのことがバレたら確実に楓は怒る。いや、怒るだけじゃない。嫌うだろう。
 倉庫前。
 焦りが鼓動を急かす。
 彼女に嫌われたくない。だけど、花沢のこともバレたくない。
 どうする、どうするどうするどうする……?
「倉庫、さ。最近行ってなかったから少しひどいかも」
「ひどい?」
「ゴキブリとか」
「え!?」
「だから、先に見ていい?」
「それなら……」
 倉庫のカギを開けるとそっと扉を開ける。
 少し開けた先に、花沢がいる。そしたら、ゴキブリがいるからやめようで済む、はずだった……。
「いない……!?」
 扉をバッと全開にしてみても、そこに花沢の姿は見えなかった。
 消えた?
 いや、そんなわけがない。足は扉を開けられないように固定しているしそう簡単には逃げられない。
 誰が?いつ、どうやって?
 両親か?
 いや、鍵は俺が持っているのだから開けられるわけがない。
 何が起こった?
 あいつが逃げて警察や学校にバレたら、俺はどうなる?
 楓と付き合うことはおろか、見放されるに決まってる。
 まずい。危険な状態になった。
 探さなきゃ。急いで探さないといけない。
 楓が隣で声をかける中、俺は、困惑、焦燥を感じていた。
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