君の一番は僕がいい
望まぬ
花沢美玖が倉庫から脱走した。
楓と別れた俺は、急いで心当たりのある場所へと向かう。
しかし、その場所にはおらずほかの可能性のある場所を探してもそこにはいなかった。
週の初め、学校に来たらどうしようかと思ったが来ることはない。
それどころか、誰も花沢を見たという生徒はいなかった。
ありえない話だった。
あの倉庫に閉じ込め、そう簡単に脱走できないようにした。
花沢自体、俺にとって危険だったのに、誰かに追われているというのだからかくまう必要があった。
その結果、これだ。
まさか逃がすとは思わなかったができることはしなければならない。
こうなった以上、花沢をやすやすと生かすことはできない。
何か活かせる場があると思ってあえて何もしなかったが、得られた成果は一つもなかった。
伊藤と花沢の証言、そして、愛美の証言が一致するというだけ。
クマの仮面というより、クマが本当に襲って来ると花沢は言っていたが、もしそうだとして、一応住宅街であるこの周辺をクマが通れば自治体やPTAが黙ってない。
教師だって全力で対応するだろう。
地方ニュースになってもおかしくないというのにそれがないのだ。
ならば、人間がクマの仮面をしているのでは?ということでクマの仮面としたが、実際は違うのかもしれない。
本当にクマが……。
いや、まさか。
そんなことがあれば、緊急事態だとさっき考えた。
焦りが頭を鈍らせているのかもしれない。
とにかく、今はなんとしても花沢を探し出さなければならない。
見つかった時の俺へのリスクが大きすぎる。
なんとしても、見つけ出す。
放課後、急いで出ようとしたが……。
「吉沢、ちょっと良いか」
担任である溝内に呼ばれ、一緒にカウンセリング室の前へと連れ出された。
最悪なタイミングだった。
もしも先に誰かが花沢を見つけたら大変なことになるが平然とした態度を貫く。
「吉沢、最近休んでいたから心配だったんだ。やっぱり級友が亡くなったのは精神的にも参るところがあったんじゃないか?」
その二人、殺したの俺なんだが……?
「ええ、まあ……」
だとしても、そんな包み隠すことなく直球にいう教師がいるだろうか。
「よかったら、一度俺に話してみないか?生徒のケアをしたい。今、このクラスはピリピリしているだろう。俺もこんなこと初めてだし、助けになるかわからないが少しだけでも気持ちを発散してみないか?」
気持ちのはけ口は必要だろうとそういった。
確かに、伊藤が亡くなったのは楓の友達が減ったわけだから少し心苦しい。
まさか、学生時で友が死ぬとは思うまい。
俺も美馬、佐久間が死んじゃったことが悲しいなぁなんて思いたいところだが……。
「いいんですか……?」
「もちろんだ。入り給え」
向かい合いながら座ると俺はおどけたように言って見せた。
「もしかして、元からこのつもりでした?」
「まあな。吉沢は勘がいいから気づくだろうと思っていた」
「何となく察してはいましたよ。溝内先生って生徒想いだから俺のことも気にするのかなって」
だから、女子生徒に対して「生徒のことを想って」とか言ってボディタッチするんだろう。一部の生徒から嫌われているということも知らずに。
ちなみに、楓も嫌悪感はあるみたいだし、そろそろ手を打つべきだと思ってる。
楓が悲しい思いを抱かないでほしいし、対人関係でストレスをためないでほしいのだから。
「そうか。吉沢は俺のことをそんな風に思ってくれていたのか。最近は、あまりいい評価を生徒からもらっていないような気がして不安だったんだよ」
そりゃ、ボディタッチするくらいだし……。
「吉沢も良い評価をもらってると聞いてる。亜久里とか愛美は美馬と宮野のクラスでの態度に一役買って出たときいたよ」
「そんな御恐れたことはしてないですよ」
「でも、二人からの評価はマシマシだ」
「美馬は、怖がってましたから。二学期に入った時には三人、行方不明になっていて二人の死者が出たとなれば精神的に来るはずです」
まずは美馬のカウンセリングからはじめるべきだったろうに。
「そうだよな。美馬は俺に気持ちを吐き出しても足りなかったみたいだから」
「……え?カウンセリングしたんですか」
「もちろん。ただ、あいつはその時、それ以上にクマが出たこと、追いかけられたこと恐れていたよ」
「クマ……」
美馬も見たのか?あいつ、そんな話していない。
愛美たちから聞いて初めて知ったような口だった。
あれはもしかして、クマの仮面と言ったから違うと思ったのか?
「何かあったかい?」
「いえ。ただ、俺は美馬は俺を疑っていました。佐久間を殺したんじゃないかって」
「それは、なんで……」
「佐久間、俺のこと好きだったみたいなんです」
「え……!?」
「それで、美馬に相談して俺と引き合わせたらしいんです。佐久間が自分からそういってました」
あれは、五月ごろだったと思う。
「佐久間は、吉沢のことが好きだったのかい?」
「俺が、体育でけがした佐久間を保健室に連れて行ったことがきっかけだったと赤裸々に」
「そうだったのか……。でも、なんでそこまで知ってるんだ?佐久間と一対一でいたのはあの佐久間が亡くなった日だろう」
「そうです。その日に、俺は呼ばれて……。でも、まさか俺と別れた後にあんなことになるなんて」
バンと机をたたく。
「佐久間を轢いた運転手はまだ入院して昏睡だって聞きました!本当なんですか!?俺は、俺は……。到底、受け入れられない……っ!」
感情が高ぶってしまっているように思える。
このままぶつけてしまおう。
「佐久間に対して、俺は言ってしまった……。俺は、お前のこと友達でしか見れない。ゲイじゃないんだって……。もしかしたら、その言葉が彼を責めることになったのなら……!俺は、俺を許せない……っ!」
「吉沢……」
「俺は、佐久間をただの友達だと言って一瞥してしまった。いつも自分を責めてしまう。もっと言い方や態度があったんじゃないかって。それなのに、俺は……っ!」
椅子から離れ、床に土下座する。
頭を抱え込み手を床へ何度も叩きつける。
「先生……!俺を処分してください……っ!こんな思いを抱いたまま生きるのは辛い!苦しい!彼の気持ちを真剣に考えなかった俺を許してくれるわけがない!許さないでほしい!先生が、俺を責めていいんです!先生の生徒を殺したようなものだから!だから、俺を殴っても蹴っても俺はそれを受け入れる!先生……俺を、殴ってください……」
泣いているような声で何度も床に拳をたたきつける。
許しを請うように。後悔しているように。
「吉沢、顔を上げろ……」
「嫌です……」
「あげなさい」
「無理だ……」
「吉沢が出した判断は別に間違っちゃいない。吉沢は、普通に女子を好きになれる。先生も同じだ。先生も吉沢も男子に告白されたときの返しなんてわからない。今も、それに悩む人はいるだろう。ただな、吉沢。それを後悔し続けなくていい。前を見ていい。いつか、自分に向き合えたら前を向いて進もう」
良い言葉だと思った。
今の時代、女子に告白されることもあるし、男子から告白されることもある。
そのうえで、返し方なんてわからないことはあると先生は言ってくれた。向き合えばいいと言ってくれた。前に進んでいいと言ってくれた。
「だから、溝内先生もロリータコンプレックスに向き合っているんですか?」
「……は?」
「だから、女子高生にスキンシップとしてハグを要求したりするんですか?キスをしようとするんですか?」
「……吉沢、何を言って」
「女子高生に恋愛感情を抱き、ボディタッチをするんですか?自分の欲のために」
「吉沢!!」
先生はついに怒声を上げた。
同感して立ち直る宣言をする前に、こんなこと言われてしまえば呆気にとられるだろう。
だが、事実。溝内はそういう指向があった。
だから、楓は嫌そうな顔をする。ボディタッチされたくないからやめてくださいと言っているのに、それを良しと捉える溝内に嫌悪を抱いていた。
実際、ほかの女子生徒もそのような出来事にあい、嫌悪を抱いていた。
「俺は知ってます。こうやって、生徒に向き合っている姿を見せていれば、授業中によく当てるようにしていれば、自然と先生の話をするようになる。意識する。その意識が、嫌悪のたぐいだと知らずに」
「お前、俺が折角相談に乗ろうとカウンセリング室を予約したというのに!!」
「だったらなぜ、女子生徒の相談に乗ろうとしない!わかってるんだろ!女子生徒が自分に対して嫌悪感を抱いているということくらい!」
「黙れ!」
「それどころか、相談に誘ったのは女子生徒一人だけ!日野楓!!お前は、日野楓に恋心を抱いていたんだろうが!」
楓は言っていた。
溝内の目が最近、気持ち悪いと。
それから、二人の行方不明者が出てから相談に誘った。
しかし、彼女は拒否。
ほかの女子生徒らが庇ったことで自分が今、このクラスの女子生徒に嫌われているのではないかと感じるようになった。
だったら、男子生徒からの信頼を得ることができれば、また話は変わるのではないか。
普段から、男子生徒を見るような、生徒全員を見るような教師ではなかったから余計に男子生徒にも不審がられた。
だが、状況が一転した。
佐久間の死。伊藤の死。美馬の死。
ほかの男子生徒は不安や悲しみ、怒りを溝内に浴びせた。
もちろん、亜久里も同様。
男子生徒からの評価は割とよくなった。
けれど、肝心の楓からの評価は上がらなかった。
ならば、教室で男子生徒を呼び出し、教師をとして仕事をしている自分を魅せることにした。
そのため、本来こうやって俺が呼び出されても嫌なら嫌ですぐ帰すこともしただろうし、そもそも相談に乗るつもりなど一切なかった可能性もある。
「……お前に、何がわかる!!俺は、女子高生じゃないと恋愛感情を抱かない!それのどこが悪い!三十代の女性を見てみろ!良い女なんていないんだ!それに比べて、女子高生は健全できれいで素敵だ!この恋心の何がだめだという!本気で言っているのなら俺はどうやって女子高生に恋心を伝えればいいというのだ!!」
そもそも、教師が生徒に手を出した時点で犯罪だと彼は知らないのだろうか。
しかし、目的は成功した。
「一つだけ、ある」
「……は?」
「花沢美玖だ」
「行方不明じゃないか」
「そうだ。だから、探すんだ。そして、ヒーローになる。日野は花沢さえ死んでいなければまだ安心する。それどころか、見つけることに成功したら?」
「見る目が変わる」
「その通りです。花沢を警察よりも早く見つけ出すことでヒーローになるんです。そしたら、日野も喜ぶはず」
だとしても、楓に会う前に溝内は終わるだろう。
そもそもこんな危険なロリコン、これ以上楓に会わせたくない。
純粋で無垢な彼女を汚れさせたくない。
「俺も探します。一緒に探した方が早い」
「いい、のか?」
「もちろん。俺は、生徒と教師の恋愛に反対する側ではないです。むしろ、純粋に応援したい」
「吉沢は、クラスメイトからも教師からも信頼が厚いよな。君のそういうところが信頼に足る所以なのだろう」
こうして、俺と溝内は花沢を探すことになった。
リスクは確実につぶす。
行方不明と今なお言われている花沢を見つけ出し、何があったのか全部聞きだす。
ただ、楓には会えなくなる可能性が高いのだが……。
楓と別れた俺は、急いで心当たりのある場所へと向かう。
しかし、その場所にはおらずほかの可能性のある場所を探してもそこにはいなかった。
週の初め、学校に来たらどうしようかと思ったが来ることはない。
それどころか、誰も花沢を見たという生徒はいなかった。
ありえない話だった。
あの倉庫に閉じ込め、そう簡単に脱走できないようにした。
花沢自体、俺にとって危険だったのに、誰かに追われているというのだからかくまう必要があった。
その結果、これだ。
まさか逃がすとは思わなかったができることはしなければならない。
こうなった以上、花沢をやすやすと生かすことはできない。
何か活かせる場があると思ってあえて何もしなかったが、得られた成果は一つもなかった。
伊藤と花沢の証言、そして、愛美の証言が一致するというだけ。
クマの仮面というより、クマが本当に襲って来ると花沢は言っていたが、もしそうだとして、一応住宅街であるこの周辺をクマが通れば自治体やPTAが黙ってない。
教師だって全力で対応するだろう。
地方ニュースになってもおかしくないというのにそれがないのだ。
ならば、人間がクマの仮面をしているのでは?ということでクマの仮面としたが、実際は違うのかもしれない。
本当にクマが……。
いや、まさか。
そんなことがあれば、緊急事態だとさっき考えた。
焦りが頭を鈍らせているのかもしれない。
とにかく、今はなんとしても花沢を探し出さなければならない。
見つかった時の俺へのリスクが大きすぎる。
なんとしても、見つけ出す。
放課後、急いで出ようとしたが……。
「吉沢、ちょっと良いか」
担任である溝内に呼ばれ、一緒にカウンセリング室の前へと連れ出された。
最悪なタイミングだった。
もしも先に誰かが花沢を見つけたら大変なことになるが平然とした態度を貫く。
「吉沢、最近休んでいたから心配だったんだ。やっぱり級友が亡くなったのは精神的にも参るところがあったんじゃないか?」
その二人、殺したの俺なんだが……?
「ええ、まあ……」
だとしても、そんな包み隠すことなく直球にいう教師がいるだろうか。
「よかったら、一度俺に話してみないか?生徒のケアをしたい。今、このクラスはピリピリしているだろう。俺もこんなこと初めてだし、助けになるかわからないが少しだけでも気持ちを発散してみないか?」
気持ちのはけ口は必要だろうとそういった。
確かに、伊藤が亡くなったのは楓の友達が減ったわけだから少し心苦しい。
まさか、学生時で友が死ぬとは思うまい。
俺も美馬、佐久間が死んじゃったことが悲しいなぁなんて思いたいところだが……。
「いいんですか……?」
「もちろんだ。入り給え」
向かい合いながら座ると俺はおどけたように言って見せた。
「もしかして、元からこのつもりでした?」
「まあな。吉沢は勘がいいから気づくだろうと思っていた」
「何となく察してはいましたよ。溝内先生って生徒想いだから俺のことも気にするのかなって」
だから、女子生徒に対して「生徒のことを想って」とか言ってボディタッチするんだろう。一部の生徒から嫌われているということも知らずに。
ちなみに、楓も嫌悪感はあるみたいだし、そろそろ手を打つべきだと思ってる。
楓が悲しい思いを抱かないでほしいし、対人関係でストレスをためないでほしいのだから。
「そうか。吉沢は俺のことをそんな風に思ってくれていたのか。最近は、あまりいい評価を生徒からもらっていないような気がして不安だったんだよ」
そりゃ、ボディタッチするくらいだし……。
「吉沢も良い評価をもらってると聞いてる。亜久里とか愛美は美馬と宮野のクラスでの態度に一役買って出たときいたよ」
「そんな御恐れたことはしてないですよ」
「でも、二人からの評価はマシマシだ」
「美馬は、怖がってましたから。二学期に入った時には三人、行方不明になっていて二人の死者が出たとなれば精神的に来るはずです」
まずは美馬のカウンセリングからはじめるべきだったろうに。
「そうだよな。美馬は俺に気持ちを吐き出しても足りなかったみたいだから」
「……え?カウンセリングしたんですか」
「もちろん。ただ、あいつはその時、それ以上にクマが出たこと、追いかけられたこと恐れていたよ」
「クマ……」
美馬も見たのか?あいつ、そんな話していない。
愛美たちから聞いて初めて知ったような口だった。
あれはもしかして、クマの仮面と言ったから違うと思ったのか?
「何かあったかい?」
「いえ。ただ、俺は美馬は俺を疑っていました。佐久間を殺したんじゃないかって」
「それは、なんで……」
「佐久間、俺のこと好きだったみたいなんです」
「え……!?」
「それで、美馬に相談して俺と引き合わせたらしいんです。佐久間が自分からそういってました」
あれは、五月ごろだったと思う。
「佐久間は、吉沢のことが好きだったのかい?」
「俺が、体育でけがした佐久間を保健室に連れて行ったことがきっかけだったと赤裸々に」
「そうだったのか……。でも、なんでそこまで知ってるんだ?佐久間と一対一でいたのはあの佐久間が亡くなった日だろう」
「そうです。その日に、俺は呼ばれて……。でも、まさか俺と別れた後にあんなことになるなんて」
バンと机をたたく。
「佐久間を轢いた運転手はまだ入院して昏睡だって聞きました!本当なんですか!?俺は、俺は……。到底、受け入れられない……っ!」
感情が高ぶってしまっているように思える。
このままぶつけてしまおう。
「佐久間に対して、俺は言ってしまった……。俺は、お前のこと友達でしか見れない。ゲイじゃないんだって……。もしかしたら、その言葉が彼を責めることになったのなら……!俺は、俺を許せない……っ!」
「吉沢……」
「俺は、佐久間をただの友達だと言って一瞥してしまった。いつも自分を責めてしまう。もっと言い方や態度があったんじゃないかって。それなのに、俺は……っ!」
椅子から離れ、床に土下座する。
頭を抱え込み手を床へ何度も叩きつける。
「先生……!俺を処分してください……っ!こんな思いを抱いたまま生きるのは辛い!苦しい!彼の気持ちを真剣に考えなかった俺を許してくれるわけがない!許さないでほしい!先生が、俺を責めていいんです!先生の生徒を殺したようなものだから!だから、俺を殴っても蹴っても俺はそれを受け入れる!先生……俺を、殴ってください……」
泣いているような声で何度も床に拳をたたきつける。
許しを請うように。後悔しているように。
「吉沢、顔を上げろ……」
「嫌です……」
「あげなさい」
「無理だ……」
「吉沢が出した判断は別に間違っちゃいない。吉沢は、普通に女子を好きになれる。先生も同じだ。先生も吉沢も男子に告白されたときの返しなんてわからない。今も、それに悩む人はいるだろう。ただな、吉沢。それを後悔し続けなくていい。前を見ていい。いつか、自分に向き合えたら前を向いて進もう」
良い言葉だと思った。
今の時代、女子に告白されることもあるし、男子から告白されることもある。
そのうえで、返し方なんてわからないことはあると先生は言ってくれた。向き合えばいいと言ってくれた。前に進んでいいと言ってくれた。
「だから、溝内先生もロリータコンプレックスに向き合っているんですか?」
「……は?」
「だから、女子高生にスキンシップとしてハグを要求したりするんですか?キスをしようとするんですか?」
「……吉沢、何を言って」
「女子高生に恋愛感情を抱き、ボディタッチをするんですか?自分の欲のために」
「吉沢!!」
先生はついに怒声を上げた。
同感して立ち直る宣言をする前に、こんなこと言われてしまえば呆気にとられるだろう。
だが、事実。溝内はそういう指向があった。
だから、楓は嫌そうな顔をする。ボディタッチされたくないからやめてくださいと言っているのに、それを良しと捉える溝内に嫌悪を抱いていた。
実際、ほかの女子生徒もそのような出来事にあい、嫌悪を抱いていた。
「俺は知ってます。こうやって、生徒に向き合っている姿を見せていれば、授業中によく当てるようにしていれば、自然と先生の話をするようになる。意識する。その意識が、嫌悪のたぐいだと知らずに」
「お前、俺が折角相談に乗ろうとカウンセリング室を予約したというのに!!」
「だったらなぜ、女子生徒の相談に乗ろうとしない!わかってるんだろ!女子生徒が自分に対して嫌悪感を抱いているということくらい!」
「黙れ!」
「それどころか、相談に誘ったのは女子生徒一人だけ!日野楓!!お前は、日野楓に恋心を抱いていたんだろうが!」
楓は言っていた。
溝内の目が最近、気持ち悪いと。
それから、二人の行方不明者が出てから相談に誘った。
しかし、彼女は拒否。
ほかの女子生徒らが庇ったことで自分が今、このクラスの女子生徒に嫌われているのではないかと感じるようになった。
だったら、男子生徒からの信頼を得ることができれば、また話は変わるのではないか。
普段から、男子生徒を見るような、生徒全員を見るような教師ではなかったから余計に男子生徒にも不審がられた。
だが、状況が一転した。
佐久間の死。伊藤の死。美馬の死。
ほかの男子生徒は不安や悲しみ、怒りを溝内に浴びせた。
もちろん、亜久里も同様。
男子生徒からの評価は割とよくなった。
けれど、肝心の楓からの評価は上がらなかった。
ならば、教室で男子生徒を呼び出し、教師をとして仕事をしている自分を魅せることにした。
そのため、本来こうやって俺が呼び出されても嫌なら嫌ですぐ帰すこともしただろうし、そもそも相談に乗るつもりなど一切なかった可能性もある。
「……お前に、何がわかる!!俺は、女子高生じゃないと恋愛感情を抱かない!それのどこが悪い!三十代の女性を見てみろ!良い女なんていないんだ!それに比べて、女子高生は健全できれいで素敵だ!この恋心の何がだめだという!本気で言っているのなら俺はどうやって女子高生に恋心を伝えればいいというのだ!!」
そもそも、教師が生徒に手を出した時点で犯罪だと彼は知らないのだろうか。
しかし、目的は成功した。
「一つだけ、ある」
「……は?」
「花沢美玖だ」
「行方不明じゃないか」
「そうだ。だから、探すんだ。そして、ヒーローになる。日野は花沢さえ死んでいなければまだ安心する。それどころか、見つけることに成功したら?」
「見る目が変わる」
「その通りです。花沢を警察よりも早く見つけ出すことでヒーローになるんです。そしたら、日野も喜ぶはず」
だとしても、楓に会う前に溝内は終わるだろう。
そもそもこんな危険なロリコン、これ以上楓に会わせたくない。
純粋で無垢な彼女を汚れさせたくない。
「俺も探します。一緒に探した方が早い」
「いい、のか?」
「もちろん。俺は、生徒と教師の恋愛に反対する側ではないです。むしろ、純粋に応援したい」
「吉沢は、クラスメイトからも教師からも信頼が厚いよな。君のそういうところが信頼に足る所以なのだろう」
こうして、俺と溝内は花沢を探すことになった。
リスクは確実につぶす。
行方不明と今なお言われている花沢を見つけ出し、何があったのか全部聞きだす。
ただ、楓には会えなくなる可能性が高いのだが……。