君の一番は僕がいい
花沢の居場所は未だわからないまま。
わからないからこそ、その日の晩、溝内と一緒に探している。
情報の手掛かりは俺も持たない。
こんな時になぜクマの正体がわかり、花沢の正体はわからないのか。
家に帰っているわけでもなければ、なぜ帰らないのか。
どこにいるのか。何をしているのか。
俺は、状況が読めないでいた。
「教師の仕事をやっていて、こうなったのは初めてだ。まさか、教え子が三人もなくなって、二人がいまだに行方不明だなんて」
「……」
とうとう、彼は文句を言うようになった。
当然だ。
クラスの上位の人間である女子一名が亡くなった挙句、クラスでも縁の下の力持ちでもあろう男子二名が亡くなった。
あの二人は男子を団結させるのには最適だ。
二人のおかげで文化祭は出し物も協力し合えたし、行方不明者が出ても一人や二人の時までは励まし合った。
ピリピリとした環境を改善させるために一役買ったのが彼らであるのだから。
しかし、仲のよかった俺の前でその愚痴はいかがなものか。
「何度探しても、場所を変えても、広範囲にしても見つからない。聞き込みをした警察も情報は得られない。僕たちは探す意味があるのかな」
「黙れ、ロリ」
「やめろ」
「誰かに刺されるぞ」
「フラグを立てるんじゃない」
しかし、そのフラグはものの十分で回収することとなる。
公園付近に近づいたころ。
夜中だというのに走っている音が聞こえる。
いや、走るというよりは追いかけてくるような感じ。
吠えるような声。
犬ではないもっと大きな何か。
この町も田舎だからなにか野生動物が出てきてもおかしくないが、だとしたら、自治体が動く。
その吠える声から数秒。
殺気だった気配を感じ、後ろを見た刹那。
横を過ぎたそいつを視認するころには叫び声が聞こえた。
その声が誰のものか処理するつかの間もなく、そいつは俺に拳を振った。
クマだった。
本物のクマが俺たちを襲った。
クマの後ろには口から泡を吹く溝内の姿。
血は出ていないが、ショックのあまり気絶したのかもしれない。
殺しまではしなかった?
いや、それならなんであんな速さで溝内を狙う?
考えるのは後だ。
こいつから、逃げなければ……!
後ろに一歩引くことで拳から回避しようとしたが、今度は左拳が腹に当たった。
自分の者とは思えない声を出した俺は、その場から何十メートルと飛ばされた。
立ち直る隙も与えないクマは、俺に跨りまた吠えた。
耳がキンとなるような痛い音。
また右の拳が顔めがけてやってくる。
対抗できるわけもないのに、俺は腕で防御の体制をとる。
その腕をクマは何度も何度も殴りつけ、力が入らなくなった俺の首を絞め始めた。
もちろん、クマだから逃げる姿勢も取れない。
足元はもう動けないし、腕を使うしかない。
だけど、その体力は今すぐに回復しない。
ポケットから護身用の刃物を取り出すすべもある。
刃物で首元を狙う。その隙にごり押しでクマをどける。
しかし、もし刃物を持っていることをこの辺の住民に知られたら?
言い逃れはできない。
三島さんたち、刑事にバレたらそれこそ危険だ。
俺を疑っていないなんて確証もないし、明らかに候補には上がっているはず。
このまま、意識がとんで終わることで死を選ぶのか?
いや、それはできない。
このクマを排除しないと一番危険なのは楓だ。
あいつが、危険な目に逢う。
それだけは回避しよう。
そのあとはどうなってもいい。どうなってくれてもかまわない。
こんな死線を彷徨っていては考えすらまとまらないのだから……。
意地悪せずに彼女にすぐ気持ちを伝えるべきだった。
玉砕してもそれでいい。
それだけでも十分だ。
彼女が悲しい思いをする前に、選べ。
今ここでクマを刺すか、誰かがこの悲劇を見て警察がこのクマを森へ返すか。
ほかにも選択肢はあるが、今思いつくのは刺すことだけ。
それ以上は考えが浮かばない。
わからない。
どうして、今まで通り佐久間や美馬みたいに殺すことができない。
わからないのではない。わかりたくないんだ。
この手の感じ、雰囲気、動き、全部似てる。
全部、同じなんだ。
だから、出来ないんだ。
このまま、俺は死を迎えるのか?
このまま、決断できずに終わるのか?
終わる。
終わってしまう。
彼女を想うことなく終わってしまう。
これもまた一興か……。
違う。
俺はそれを望んだわけじゃない。
この結末を望んだわけじゃない。
彼女と一緒にいられる未来を。
彼女と生活している未来が。
彼女と人生を歩む未来に。
俺が彼女の隣にいたい。
「何してるの……?」
それは、いうでもなく花沢の声だった。
最悪のタイミングで彼女は俺たちに会ってしまった。
花沢ならわかるだろう。
目撃者は人に見え、被害者はクマに見える構図。
それは、俺も溝内が殺されたであろう時に察した。
いや、確信へと変わった。
花沢の推理は正しいし、ここで見てしまったのであれば、変えられない事実になる。
ほら見ろ。
彼女は泣いている。
こんな現実があっていいのかと彼女は涙を流している。
意識がとんでいく中、何もできなかった俺と、動けなくなった花沢。
もう充分証拠は出そろった。
それが、とてつもなく悲しい結末になったと悟るのだろう。
わからないからこそ、その日の晩、溝内と一緒に探している。
情報の手掛かりは俺も持たない。
こんな時になぜクマの正体がわかり、花沢の正体はわからないのか。
家に帰っているわけでもなければ、なぜ帰らないのか。
どこにいるのか。何をしているのか。
俺は、状況が読めないでいた。
「教師の仕事をやっていて、こうなったのは初めてだ。まさか、教え子が三人もなくなって、二人がいまだに行方不明だなんて」
「……」
とうとう、彼は文句を言うようになった。
当然だ。
クラスの上位の人間である女子一名が亡くなった挙句、クラスでも縁の下の力持ちでもあろう男子二名が亡くなった。
あの二人は男子を団結させるのには最適だ。
二人のおかげで文化祭は出し物も協力し合えたし、行方不明者が出ても一人や二人の時までは励まし合った。
ピリピリとした環境を改善させるために一役買ったのが彼らであるのだから。
しかし、仲のよかった俺の前でその愚痴はいかがなものか。
「何度探しても、場所を変えても、広範囲にしても見つからない。聞き込みをした警察も情報は得られない。僕たちは探す意味があるのかな」
「黙れ、ロリ」
「やめろ」
「誰かに刺されるぞ」
「フラグを立てるんじゃない」
しかし、そのフラグはものの十分で回収することとなる。
公園付近に近づいたころ。
夜中だというのに走っている音が聞こえる。
いや、走るというよりは追いかけてくるような感じ。
吠えるような声。
犬ではないもっと大きな何か。
この町も田舎だからなにか野生動物が出てきてもおかしくないが、だとしたら、自治体が動く。
その吠える声から数秒。
殺気だった気配を感じ、後ろを見た刹那。
横を過ぎたそいつを視認するころには叫び声が聞こえた。
その声が誰のものか処理するつかの間もなく、そいつは俺に拳を振った。
クマだった。
本物のクマが俺たちを襲った。
クマの後ろには口から泡を吹く溝内の姿。
血は出ていないが、ショックのあまり気絶したのかもしれない。
殺しまではしなかった?
いや、それならなんであんな速さで溝内を狙う?
考えるのは後だ。
こいつから、逃げなければ……!
後ろに一歩引くことで拳から回避しようとしたが、今度は左拳が腹に当たった。
自分の者とは思えない声を出した俺は、その場から何十メートルと飛ばされた。
立ち直る隙も与えないクマは、俺に跨りまた吠えた。
耳がキンとなるような痛い音。
また右の拳が顔めがけてやってくる。
対抗できるわけもないのに、俺は腕で防御の体制をとる。
その腕をクマは何度も何度も殴りつけ、力が入らなくなった俺の首を絞め始めた。
もちろん、クマだから逃げる姿勢も取れない。
足元はもう動けないし、腕を使うしかない。
だけど、その体力は今すぐに回復しない。
ポケットから護身用の刃物を取り出すすべもある。
刃物で首元を狙う。その隙にごり押しでクマをどける。
しかし、もし刃物を持っていることをこの辺の住民に知られたら?
言い逃れはできない。
三島さんたち、刑事にバレたらそれこそ危険だ。
俺を疑っていないなんて確証もないし、明らかに候補には上がっているはず。
このまま、意識がとんで終わることで死を選ぶのか?
いや、それはできない。
このクマを排除しないと一番危険なのは楓だ。
あいつが、危険な目に逢う。
それだけは回避しよう。
そのあとはどうなってもいい。どうなってくれてもかまわない。
こんな死線を彷徨っていては考えすらまとまらないのだから……。
意地悪せずに彼女にすぐ気持ちを伝えるべきだった。
玉砕してもそれでいい。
それだけでも十分だ。
彼女が悲しい思いをする前に、選べ。
今ここでクマを刺すか、誰かがこの悲劇を見て警察がこのクマを森へ返すか。
ほかにも選択肢はあるが、今思いつくのは刺すことだけ。
それ以上は考えが浮かばない。
わからない。
どうして、今まで通り佐久間や美馬みたいに殺すことができない。
わからないのではない。わかりたくないんだ。
この手の感じ、雰囲気、動き、全部似てる。
全部、同じなんだ。
だから、出来ないんだ。
このまま、俺は死を迎えるのか?
このまま、決断できずに終わるのか?
終わる。
終わってしまう。
彼女を想うことなく終わってしまう。
これもまた一興か……。
違う。
俺はそれを望んだわけじゃない。
この結末を望んだわけじゃない。
彼女と一緒にいられる未来を。
彼女と生活している未来が。
彼女と人生を歩む未来に。
俺が彼女の隣にいたい。
「何してるの……?」
それは、いうでもなく花沢の声だった。
最悪のタイミングで彼女は俺たちに会ってしまった。
花沢ならわかるだろう。
目撃者は人に見え、被害者はクマに見える構図。
それは、俺も溝内が殺されたであろう時に察した。
いや、確信へと変わった。
花沢の推理は正しいし、ここで見てしまったのであれば、変えられない事実になる。
ほら見ろ。
彼女は泣いている。
こんな現実があっていいのかと彼女は涙を流している。
意識がとんでいく中、何もできなかった俺と、動けなくなった花沢。
もう充分証拠は出そろった。
それが、とてつもなく悲しい結末になったと悟るのだろう。