幸せな家庭

不思議に思いながら裕也は家の中に入り、廊下を歩く。家の中はシンと静まり返っており、自分の足跡がやけに大きく聞こえた。

「ただいま」

誰もいないと知りながらも、リビングのドアを開けて裕也は言う。そして、リビングのテーブルに何か紙が置いてあることに気付いた。

「何だ？」

近付いてその紙の正体に気付いた時、裕也は驚き、慌てて家の中を走る。向かったのはクローゼットだ。真奈の服が入れられているケースを開けるも、そこには一着も服は入っていない。実の服も一着もなかった。それどころか、実のベビーベッドもなくなっている。

「本気なのか……」

慌ててスマホを取り出し、裕也は電話をかける。かけた相手はすぐに出てくれた。

『もしもし、今見たの？離婚届』

淡々とした口調で亜子は言う。裕也は焦りながら早口で言った。

「どういうことだよ？俺たち、うまくやってたじゃないか。いい家庭を築いてきたじゃないか。いきなり離婚届を置いていくなんて、どうかしてる」