【大賞受賞】沈黙の護衛騎士と盲目の聖女
声に出して囁くと、喉が震えてしまう。この十日間、声を出さずにいることが彼女の近くにいるための条件だった。
だが、何度も叫びたかった。君を愛していると。離したくないと。
ユリアナはレームという護衛騎士がレオナルドであることに気がついていない。だから『自分を抱け』と、彼女の方から言われるとは思っていなかった。
純潔を奪うことは、聖女の力を奪うことだ。それを頼むのは、余程の覚悟がないとできなかっただろう。途中で泣いていたのは、レームに対する罪悪感だったのだろうか。
——そんなことは、ユリアナが失ったものに比べれば大したことないのにな……。
彼女は自分のために片足と両目を失っている。それに比べれば、聖女の力を奪う罪など軽いものだ。彼女の為ならば、いくらでも罪を背負ってみせる。だから、自分のことでこれ以上、悲しまないでほしい。
レオナルドはユリアナの眦に口づけながら、昼間の雪の中の彼女の姿を思い返していた。
ユリアナは頬を膨らませながら、男の顔に触れていた。華奢な身体を男の上に横たわらせ、輝くまっすぐな髪を揺らしていた。
——なんて、可愛らしいのだろう。
レームと愛称を呼ぶ涼やかな声も、瞼を閉じながらも表情の豊かな顔も、細い手も全てが可愛らしく、愛おしい。
——この腕に抱きしめて、愛していると囁きたい。
彼女の願いの全てを叶えたい。もっと甘やかせて、全ての憂いを取り払いたい。
——あぁ、こんなにも愛おしいのに……
久しぶりに会うことのできた彼女は、静謐さをまとい美しさを増していた。幼い頃のお転婆だった姿が嘘のように、長いまつ毛を震わせるように俯く姿は神々しかった。