ムショうの
カバンの生地が、ザラザラする。
うのちゃんは、テンションの高い声でわたしに言った。
「こまりは本当に、アラジンすきだよねぇ~!!昔っから!!ね、知ってる?覚えてる?幼稚園のころにさぁ。こまり毎日、バスタオル広げてね、その上に乗ってね!魔法のじゅうたん~っつって」
「・・・よく覚えてるね、そんなの」
「覚えてるよーっ!こまり、勝手に配役決めてさぁ!こまりがジャスミンで、わたしがアラジンで、お母さんはランプの精で!!たまにわたしとお母さんが入れ替わるんだけどね、でもジャスミンは絶対こまりで」
思い出すとおかしくなってきたのか、うのちゃんがケラケラ笑う。大きな声。
わたしは笑えない。頭のなかで、うのちゃんの笑い声より大きな爆発音がはじける。
分裂するビル。くだける窓ガラス。ついさっきアオイと見た、DVDのワンシーンだ。
キスのあとに観た、DVD。
その作業は、なんていうか。キスの、オマケみたいだった。
あってもなくてもいい、なくていいのにしかたなくくっつけた、オマケ。
SF・アクション系の映画だった。どこかしらの星の宇宙人が、地球侵略をたくらむ、戦う、そういった話だった。
あんな、人がぶっとばされるシーンを立て続けに見るくらいなら、アラジンがみたかった。空飛ぶじゅうたんと、ホール・ニュー・ワールドが聴きたかった。
あのシーンが好きだ。とても好きだ。
うのちゃんが言うように、幼稚園のころ、わたしはジャスミンになりたかった。白馬じゃなくて、じゅうたんで迎えに来てほしかった。バカみたいだと思うけど。