ムショうの

 次の日がやってくるのは、早かった。

 眠れないかもと思っていたのに、布団にふれた瞬間眠気におそわれて、目覚めると朝。トーストを急いで食べなければいけない時間になっていた。

 ピーナツバターをじゅわり、溶かしたトーストを五口くらいで食べ終わり、慣れた手つきで制服を着る。

「お母さんーっ!ストッキング伝線したやばいーっ!替え持ってないー!?」

 わたしの制服の色と同じ、黒のスーツを着て、あわただしく髪をなでつけているうのちゃん。歯ブラシをくわえて、スカートのチャックを上げて。同時に三つくらいのことをしている。

 バタバタと二階にかけていく、ストッキングで覆われたその太ももには、カミナリマークみたいな線が入っている。

 実家に戻ってきて間もないけれど、うのちゃんは仕事をさがすために、さっそく今日から職安やら面接やらに向かうらしい。

「大変だったんだから、すこしはゆっくりしたら?」

 っていう、お母さんの意見にわたしは賛成だけれど、うのちゃんはそうしない。過活動。ゆっくり、が嫌いみたい。動いていないと死んでしまう、サメみたい。

 すごい行動力だなぁと思うけれど、引っ越しで持ち込んだ段ボールの片づけの方は、一向に進んでいない。

 しなければいけないことをほっぽりだして、次に行ってしまう。セッカチなのに、語尾はゆっくり。

 うのちゃんは、とてもアンバランス。

「「いってきます」」

 重なった二つの声。わたしたち姉妹は、久しぶりに同時に外へとくりだす。

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