ムショうの

 口がひりひりしたから、うまく笑えなかったから、わたしはズンズン、教室のまんなかに歩いた。
 そして、そこにいるアオイの腕をつかむ。

「・・・ちょっと」

 わたしを見上げるかたちになったアオイは、目と口をまるくして、とても驚いている。

「えっ、こまり」
「いや、ちょっと、ちょっと、来て」

 ちょっと、ちょっと、だけ言い続けるわたし。振り返らない。
 そんなわたしに、廊下のハシまでひっぱられていくアオイ。

 本当にハシのハシまで来て、やっと手をはなした。まだ一日の初めの方だというのに、たっぷり背中に汗をかいていた。自転車をこいできたせいじゃない。

「・・・なんで、言うの」

 わたしが発したのは、寝起きよりももっと低い、とても怒った声だった。

 廊下の上で、地底モグラの声。アオイがあわてた様子で、わたしの顔をのぞきこむ。

「…え、どしたの、こまり」
「なんで」
「え?」
「家、行ったって」

 わたしが言うと、アオイはすこし気まずそうな、赤と青が一緒に混ざったような、変な顔をした。

「…え、や、こまりが昨日遊びに来たって、言っただけじゃん。べつに」

 わたしから目線をずらして、頭をかくアオイ。
 なんでだろう。なんで、気まずそうで申し訳なさそうなのに、照れも入っているんだろう。

 なんで、赤の。照れのほうが、強いんだろう。

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