ムショうの

 アオイを見ていたら、わたしのなかに代わりにこみ上げてくるのは青だった。

 アオイのほうがずっと背が高いのに、わたしが見下ろしているような気分になって、「もういいよ」と言った。そのまま、早歩きで女子トイレに逃げ込んだ。

 ムッと、独特のよどんだ空気に包まれる。
 上のほうにある小さな窓だけでは、なかなか空気が逃げられずにとどこおっているみたいだ。

 壁にはりついている鏡に、自分の顔がうつっていた。
 かわいくないなぁ、と思った。全然。アオイは、コレのどこがよかったんだろう。

 告白してきたのは、アオイの方だった。球技大会が終わった二週間くらい後に、つき合ってほしいと言われた。

 同じクラスだったものの、それまであまり話したことがなかったから、わたしは聞いた。なんで?

 脳裏に浮かぶ情景。放課後の教室。
 そうだ。そのときもアオイは、わたしからすこし視線をそらして、耳を赤くしていた。

「球技大会のバレー、下田さ、すげースマッシュ打ってて。すげーかっこよくて、すげぇなって、そっから下田のこと気になって、なんかいいなって、それで」

 ・・・それで?

 じゃあアオイは、わたしが試合の後半でスマッシュを決めてなかったら、わたしを好きにはならなかったの。

 わたしにつき合って、なんか言わなかったの。

 鏡に向き合う。そっと、自分のくちびるをなでた。リップもなにもついていない、質素なくちびる。

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